その結果、副都心線は今では(大規模な輸送障害が発生した場合の他路線への波及という問題は依然抱えながらも)遅延が発生しにくい「優等生」となっている。とはいえトラブルを起こしてから対策を進めたところで、なぜ最初から予見できなかったのかと言われれば、おっしゃる通りである。

 鉄道事業は日々の経験の積み重ねで成り立ってきたものだけに、ゼロからスタートする新線ではトラブルが起こりがちだが、全く前例のない予期せぬ問題はそう多くない。ほとんどは、もう少しだけ想像力を働かせれば対応できたはずのトラブルである(そのひとりである筆者も猛省しなければならない)。

 そもそも鉄道事業者にとって新線開業はめったにない大きなイベントであり、失敗したからといって名誉挽回の機会はほとんどない。結局、古今東西の事例を学びつつ、一つずつ懸念をつぶしていくしかないのだろう。

 そういった意味では今年3月、首都圏では副都心線以来の大型新線として開業した相鉄・東急新横浜線は、開業初日こそやや混乱が見られたが、その後はつつがなく運行されていることから見ると、副都心線の事例を研究した成果なのかもしれない。

 今年度末には北陸新幹線の金沢~敦賀間延伸や、北大阪急行線千里中央~新箕面間延伸など新線の開業が予定されているが、注目すべきは8月26日に開業を予定している宇都宮ライトレールだ。日本では前例のない新設LRT(次世代型路面電車)である同線は、まさにゼロからの出発だが、工事の遅れによる2度の開業延期や、試運転で発生した脱線事故など手探りの部分も多い。

 一方で、新線はパイオニアでもある。ホームドアを完備したワンマン運転を行いながら、さまざまな路線と直通運転を実施する副都心線が失敗のまま終われば、後の新線計画にも影響を与えたかもしれない。同様に宇都宮ライトレールが失敗してしまえば、地方都市における新たな公共交通機関として注目されるLRTの未来が閉ざされるかもしれない。

 乗客の生命、財産は言うまでもなく、当たり前の日常生活と、社会の未来を背負う鉄道事業者の責任は重大であり、その一員でいることには相応の覚悟が求められる。それは鉄道事業者の中にいた経験からも、外から鉄道記事を書く今の立場からも確信めいた思いを抱くのである。