サステナビリティ、
ブランディングを再定義する

 サステナビリティもブランディングも成功のセオリーが確立していないため、企業活動にどう取り込み、経営の軸としてどう機能させるのか、腐心するテーマであることは間違いありません。ただ、どちらも究極的には「企業価値向上」のために有効であり、不可欠な要素であることをご理解いただけると思います。

 企業価値とは、文字どおり「その企業が持つ価値のこと」ですが、可視化して初めて把握が可能になります。何を当たり前のことをと思われるかもしれませんが、肝心なのは「何をもって」企業価値とするかです。

 表現の仕方にバリエーションはあれども、長い間、企業価値は「経済的価値」を数値で表したものとされてきました。ほとんどの企業は株主資本主義の下、財務諸表を分析することで算出される現在および将来の経済価値を金額に換算し、上場企業は株価や時価総額をもって、ほぼ企業価値と同義のものとして扱うのが普通でした。

 しかし近年、この企業価値の定義自体が変わってきています。少なくとも、変わるべきであると、私は考えています。たとえば、ここ数年、「非財務情報」や「非財務価値」という言葉をよく耳にするようになってはいないでしょうか? あるいは現在の業績的価値よりも、将来に向けた期待価値によって株価は決まるといった論調はいかがでしょうか? 直近では「人的資本開示」という言葉も生まれ、さまざまなメディアでクローズアップされています。

 いずれも、ブランドや人材の価値、環境、社会への取り組みなど、財務諸表だけでは見えてこないものを企業価値として捉えようとする動きです。

 こうした流れを生み出しているのが、よく言われるVUCA時代の到来です。将来は予測不可能なものであり、その中で確率論的な経済活動を積み上げていくことは難しくなっています。

 企業はこうした前提に立ち、短期でわかりやすく定量で表せる経済価値のみならず、未来がどのように変化したとしても、企業価値向上を実現していくためにあらゆるステークホルダーにきちんと向き合い、適切な投資をしていくことが求められているのです。

 これらはすべて、企業価値が従来の経済価値と同義ではないという考え方が広がっていることや、株主資本主義からステークホルダー資本主義へのパラダイムシフトが起こっていることの表れであると捉えることもできるでしょう。