SDGs、ESGといった言葉が一般化する中で、「サステナビリティ」もごく当然のように用いられ、浸透している。「持続可能性」と訳されることが多いこの言葉は、「サステナビリティ経営」などビジネスの世界でも無視することのできないキーワードとなっている。しかし、「サステナビリティとは?」と問われた際に明確な回答を持つ人は少なく、その回答自体もばらばらではないだろうか。
『サステナビリティ・ブランディング 選ばれ続ける企業価値のつくりかた』(伊佐陽介著)は、人それぞれの捉え方が異なり曖昧なものでありながら、企業経営にとって欠かすことのできない「サステナビリティ」と「ブランディング」という2つの要素を再定義し組み合わせることで可能になる企業の成長戦略をまとめた注目の書籍である。
今回は特別に本書から一部、長年ブランドコンサルティングに携わってきた著者がたどり着いたブランディングの本質を抜粋して紹介する。

ブランディングは企業経営そのもの生き残りに欠かせない最良の一手

スペックが同じでも、
売れ行きに差がつく理由

ブランディングは企業経営そのもの生き残りに欠かせない最良の一手伊佐陽介(いさようすけ)
株式会社バイウィル代表取締役COO
早稲田大学卒業後、一部上場総合不動産デベロッパーで住宅事業に従事。その後、(株)リンクアンドモチベーションにて、ブランドマネジメント事業部コンサルティング責任者に就任。2013年に独立し、ブランドコンサルティング会社(株)フォワードを設立し、2020年に同社代表取締役社長に就任。2023年には、GX事業を展開する株式会社Waaraを吸収合併。(株)バイウィルに社名変更し、代表取締役COOに就任。

「サステナビリティ・ブランディング」と聞いて、どのようなイメージを抱くでしょうか?

 サステナビリティと聞くと、「SDGs」や「環境の持続可能性」を連想し、自分の仕事と直接的なつながりを感じられない人もいるかもしれません。同様にブランディングについても、イメージづくりが必要な商品は扱っていないという理由から、自社とは無縁の話のように感じる人もいるでしょう。しかし、本当にそうでしょうか。

 少し長くなりますが、私自身とブランディングに対する基本的な考え方について紹介させてください。私は長年、ブランドを軸とした経営コンサルティングを行ってきました。この領域に足を踏み入れたきっかけは、「世の中には、機能・性能にほとんど差がないにもかかわらず、売れるものと売れないものがある。さらには高くても売れ続けるものと、安くしても売れないものがある。それはなぜか?」といういたってシンプルな疑問からでした。それは、新卒で入社した総合不動産デベロッパーで、ファミリーマンションの企画・販売を担当しているときの大きな悩みでもありました。

 当時、私が販売を担当していた物件の競合に、立地条件や共用部、内装の仕様レベルなどがほぼ同じなのにもかかわらず、むしろ価格帯の高い物件がありました。販売担当としては価格で有利な分、「先に完売させてやる」と意気込んで臨みましたが、私の担当物件は、週末でも見学希望者が少ないという残念な状況が続きました。一方、競合物件は予約がいっぱいで、モデルルームに入れないくらい見学者が殺到しているのです。

 私は考え得る限りの情報を集めて原因を探りましたが、そこまで集客差が出るような違いを見出せませんでした。ついには、お客様のふりをして競合相手のモデルルームの見学まで敢行しましたが、解明の糸口すら見つかりません。

 その疑問は、たまたま競合物件の見学の後に私の担当物件を見学されたお客様のひと言で解消されました。「こちらの物件の前に○○(競合物件の名称)のモデルルームに行かれたのはなぜですか?」と聞いてみると、「え、だって○○のほうが、何となく聞き覚えのあるマンション名で印象がよかったから」という返事だったのです。

 最終的にそのお客様は私の担当物件を購入してくださったのですが、何度かお話を重ねる中で、競合物件に対する印象や評価が実際のスペック以上にとても高く、驚いたことを覚えています。それこそが「ブランド」の差だと気づいたのです。

 その後、ブランドコンサルティング専門のコンサルタント職に転職した私は、前述の「機能・性能差がないのに売れ続けるものは何が違うのか」という疑問への答えを求め、学べば学ぶほど、知れば知るほど、その奥深さにハマっていきました。

 そして、企業は、売れ続けるために、どのようにステークホルダーと向き合い、どのような投資判断をすべきかを考え続けるうちに、気づけば約15年が経っていました。

 これまで100社以上のブランディングに携わらせていただいた中で、自分なりに得たアンサーは次の3点に集約されます。

(1)ブランディングとは、経営そのものである
(2)ブランディングには、一貫性と継続性が必要である
(3)その結果として、ブランディングへの投資は、本質的な競争優位と企業価値を高めることができる

 冒頭で、私は自分の肩書きを「ブランドを軸とした経営コンサルティング」と述べましたが、それにはこうした私の経験や想いが込められています。裏を返せば、世の中の経営者やビジネスパーソンには、ブランドを経営の重要な軸と捉えている人がまだまだ少ないのが現状です。