お茶を濁した評価をさせない工夫
佐宗 前回教えていただいた人事評価制度に加え、ロードマップやカルチャードックなど、さまざまな方法で理念を伝え、理念で企業を引っ張っていらっしゃるのですね。
木下 そうなんです。これは必要なことだと感じています。
コロナ禍でリモートワークやフレックス勤務を導入した企業は多いと思いますが、メルカリではこれを今後も継続したいと思っています。現状、一定割合の社員が拠点のない国・場所に住んでいますから、多様な、才能ある人に活躍してもらうためには、フルリモート、フルフレックスを今後も続けるしかないというのが実情なんです。
一方で、フルリモート、フルフレックスだと、社員がバリューを実感する機会は減ってしまいます。同じタイミングでオフィスにいない限り、バリューに沿った行動をして褒められている社員を目の当たりにするようなチャンスはありませんからね。だからこそ人事としては、バリュー行動へのモチベーションを高められるよう、さらに評価制度を変えようとしています。
佐宗 前回、パフォーマンスに対する評価はボーナスに反映され、バリュー行動に対する評価が昇格・昇給に影響するというお話がありましたが、そこからさらに変わるのですか?
木下 基本の考え方は変わらないのですが、5段階評価でメリハリを今までよりもはっきりつけるようにしたんです。「5かな、4かな」とか「2かな、3かな」と迷うとき、評価者はどうしても4とか3とかの無難な評価をつけてしまいがちです。これをやめて、しっかりと結果を出している人には迷わず5をつけてもらう。また、もっとがんばってほしい人には、あえて2をつけてもらう。
佐宗 評価者側のメッセージをはっきりと伝えて、奮起を促すわけですね。
木下 そのとおりです。実際、1や2をつけられた人の半数は、次の期には3に戻る傾向が見られますから、やってよかったなと感じていますね。
佐宗 逆に、そうやって率直な評価をつけることのデメリットはないのでしょうか?
木下 現実的に言えば、「1」や「2」の評価をつけられた人の3分の1程度は、1年以内に退職されます。でもそれは悪いことではないとも思うのです。
メルカリは単なる一つの「場」にすぎません。ここで十分に力を発揮できていないのは、興味の対象が別なところにあるとか、強みが活かせない環境であるなどといった理由があるはずです。プロとして、ご自身の才能を発揮できる場が他にあるのであれば、そちらに移ったほうがお互いにとってもいい。
「メルカリが大好きです! でも、もっと興味がある事業があったので、転職します」と言いながら退職される社員もいます。人事としては「もっと何かできなかっただろうか?」「みなさんの可能性を広げられる環境をどんどんつくらなければ…」と反省する日々ですが、自立したプロフェッショナルとしての目線で考えると、そのほうが健全だなと感じることのほうが多いですね。