「世界で初めて『企業理念のつくり方・使い方』を体系化した本だ」「『業績が伸びていさえいれば万事OK』という時代が終わったいま、企業を理念でドライブするこんな新しい方法を探していた!」など、企業経営に携わる人々に高く評価されている書籍『理念経営2.0──会社の「理想と戦略」をつなぐ7つのステップ』。
著者である佐宗邦威さんは、本書の執筆にあたってさまざまな企業の事例を参考にし、フリマアプリで有名なメルカリにも早くから注目していたという。スタートアップ時代から一貫して理念に基づいた経営を実践し、今年2月にはグループミッションを刷新したメルカリは、いったいどのように企業理念を活用しているのだろうか? 同社CHRO(最高人事責任者)の木下達夫さんと佐宗邦威さんによる対談をお送りする(第2回/全2回 構成:フェリックス清香 撮影:疋田千里)。
10年目にグループミッションを定めた理由
佐宗邦威(以下、佐宗) メルカリでは創業から一貫して理念に基づいた経営をしていらっしゃいますよね。そのメルカリが今年2月にグループミッションとして「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる(Circulate all forms of value to unleash the potential in all people)」を新たに定め、そこに事業別にいくつかのサブミッションをつくるような構成になさったのは、大きな変化だと思いました。ここには、どんな狙いがあったのですか?
木下達夫(以下、木下) 佐宗さんの『理念経営2.0』にもありましたが、事業のミッションは、「社会に対してどんな役割を果たしていきたいか」を定義するものですよね。
メルカリはもともと「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションを掲げていましたが、その根底には創業者の山田進太郎が世界中を旅して抱いた「物が余っている国と足りない国をつなげれば、資源不足はなくなるし、サステナブルな世界ができるのではないか。テクノロジーの力を使えば、この世界に循環型社会を生みだせるはずだ」という思いがありました。
そこから一歩踏み込んで、「自分たちはメルカリやメルペイなど個々の事業を通じて、何をやりたいのか?」を考え直して定めたのが、今回のグループミッションです。『理念経営2.0』で佐宗さんが書かれている「パーパス(WHY WE EXIST=私たちの存在する目的は何か?)」に当たるものだと考えています。
佐宗 英文のなかで「Unleash(解放する)」という単語が使われているのが非常にユニークだなと思ったのですが、このステートメント自体はどのように決めたんですか?
木下 この文言に落ち着くまで、喧々諤々の議論があって、かなりの難産でした。社内の各部署から、職位に関係なく有志を募って1年ぐらいかけて決めたんです。メンバー選定でこだわったのはダイバーシティです。男女や年齢もありますし、外国籍の方にも入ってもらいました。さまざまな国籍の人に「これ、いいね!」と思ってもらえるようなものにしたかったからです。
その結果、海外の優秀な人材にいままで以上に興味を持っていただきやすいミッションになったと思っています。いまはLinkedInを使って採用のアプローチすることが多いのですが、メルカリはまだ日本とアメリカでしか事業を展開していないので、海外の人材からは「なんの会社なんですか?」と聞かれることもあります。そのときに、このミッションを伝えて事業内容を説明すると、日本の候補者よりもいい反応が返ってくることが多いです。ピ
彼らはある意味、どの国でも通用するスキル・技術を持っており、かなり自由に仕事を選べる立場にいると思います。ですが、そういう人ほど、社会的に意味のあることをしたいと考えていて、ミッションに対する感度も高いんですよね。
佐宗 とくに欧米・中国では、循環経済に関心がある人が増えていますよね。時差のようなものなんでしょうけれど、日本にもこの流れがやってくるのだと思います。
木下 そうなんです。海外の方のほうが社会的意識が高いから、それに合わせてメッセージを出していますが、最近ではとくに日本の若い人にも共感してもらえているなという実感があります。
P&Gジャパンに入社し採用・HRBP(HRビジネスパートナー)を経験。2001年日本GEに入社、北米・タイ勤務後、プラスチックス事業部でブラックベルト、HRBP、2007年に金融部門の人事部長、アジア組織人材開発責任者。2011年に8ヵ月間のサバティカル休職取得。2012年よりGEジャパン人事部長。2015年にマレーシアに赴任し、アジア太平洋地域の組織人材開発、事業部人事責任者を務めた。2018年12月にメルカリに入社、執行役員CHROに就任。