企業が100年を超えて
生存するための3つの条件
AGC取締役会長。大学卒業後、旭硝子(現・AGC)入社。2003年、アサヒマス・ケミカル(インドネシア)社長に就任。2010年、旭硝子 執行役員・化学品カンパニープレジデント、2013年、旭硝子 常務執行役員・電子カンパニープレジデントを経て、2015年1月より旭硝子代表取締役社長に就任。2021年1月、社長職を退き、AGC代表取締役会長に就任。同年3月より取締役会長。 Photo by Teppei Hori
1つめは、長期的な視野に立つこと。これはどの企業もやっていることかと思います。2つめは、聖域なく変革に取り組むこと。これがなかなか難しい。
そして3つめは、創業精神を忘れないことです。「何のためにこの会社は設立されたのか」「何を価値として社会に提供しようとしているのか」。激しい変化の中だからこそ、こうした「企業の存在意義」をしっかりと問い直すことが必要です。
VUCAの時代、企業は将来の予想がますます難しくなっています。加えて最近は、企業の社会的な責任が重要視されています。過度の「株主資本主義」一辺倒から、「ステークホルダー資本主義」へと移行し、将来に向けて社会的な価値を提供していくのが、企業の大きな使命となっています。
そこで私たちは、他と違う「企業の存在意義」とは何かを追究し、原点に戻ってこれを再定義しました。その上で、「既存の事業の深化」と「新しい事業領域の探索」によって「第2の創業」を目指すことにしたのです。結果的にこれが「両利きの経営」のモデルとして取り上げられることになりました。
自社の存在意義を再定義
企業名まで変えた「既存の事業の深化」
2014年当時、売り上げの約4割を占める主力のガラス事業で利益が出なかったりと、私たちは全体的に厳しい状況にいました。企業というのは、減益が続くとコストダウンに走りがちですが、そうではなく、経営側はトップライン(売上高)をどう上げていくかを考えなければなりません。そのためにはまず何よりも、社員のマインドセットを変えることが必要だと思いました。
2015年に私が社長になったとき、各部門から若手社員や将来の幹部候補生を選抜し、「AGCの原点は何か?」「なぜこれまで長く存続できたか?」「これからどうしていくか?」「2025年のありたい姿とは?」を1年かけて皆で考え、非常に中身の濃い議論をすることができました。
AGCは、岩崎彌之助(いわさき・やのすけ/三菱財閥の創設者である岩崎彌太郎の弟で、三菱財閥の2代目)の次男、岩崎俊彌(いわさき・としや)が、近代化に伴うビル建設ラッシュの中、欧州から全量を輸入していたガラスを国内生産するため、1907年に創業しました。
その後、モータリゼーション、テレビの普及、コンピュータや精密機器の生産拡大という、日本経済の変化とともに、ガラスのほかにも、セラミックス、電子、化学などの事業が成長しました。独自の素材ソリューションの提供を通じて、企業としてサスティナブルな社会の実現やイノベーションを支えてきたのです。これがAGCの原点です。
以上を踏まえ、自社の存在意義を「ガラスの会社」から「素材の会社」に定義し直しました。「何のために私たちはこの会社で仕事をしているのか」を問い、将来のイノベーターを支える役割であることを打ち出し、社長が代替わりしても内容がぶれないよう、あえて一般化した表現にまとめ、経営方針「AGC plus」(https://www.agc.com/company/strategy/policy/index.html)を策定しました。
ガラスというのは、私たちのアイデンティティでしたので、2018年に社名を「旭硝子」から「AGC」に変えるときは大いに悩み、また、実行段階で非常に苦労しました。人気俳優の高橋一生さんや広瀬すずさんが出演するCMなども活用しながら、「ガラスの会社」から「素材の会社」への転換を図り、ようやく定着してきました。
同時に、集中すべき事業と整理対象の事業を明確にし、積極的にM&Aも行いました。コア事業のうち、東南アジアの化学品事業はM&Aを通じてキャパシティを増やしました。一方で、フィリピンや北米では建築用ガラス事業を売却して撤退しています。
ポートフォリオ転換は次のように進めました。既存の事業をコア事業として進化させていくとともに、私たちが持つポテンシャル技術を将来からバックキャストしたときに、どういう領域に適性があるかを考え、戦略事業として、モビリティ、エレクトロニクス、ライフサイエンスの3つの事業を探索の領域として絞り込みました。
あわせて、ROCE(使用資本利益率)とEBITDA(営業利益+減価償却費)で各事業を評価し、報酬評価に完全にリンクする形にしました。体質強化の領域からキャッシュをジェネレートする領域へ進化させることを、一生懸命行った事業もあります。