世界的な観光地の北京では厳しい警備が

 晴れてビザを取得した日本人の会社経営者Fさんは、6月に出張で北京を訪れた。驚いたのは、街の訪問者を警戒するガードの厳しさだった。

「私は胡同の中にあるホテルに滞在しましたが、胡同エリアに入るにもパスポートの提示を求められます。北京は警察も多かったです。天安門城楼に入るにも、故宮博物館に入るにも前日までに予約を入れる必要があります。しかも、すべてが実名制です」

 もともと、天安門や故宮博物館の入場には厳しい検査が存在したが、ことさらに管理が厳重になったようだ。世界的な観光資源が集まる北京だが、こんな厳重な警備体制が敷かれていては外国人観光客の足もおのずと遠ざかってしまう。

 一方で中国の地方政府が、日本企業に向けて投資を呼び掛けているのもまた事実である。背景には地方経済の疲弊もあるが、日本勢の撤退や事業縮小なども痛手となっているのではないだろうか。国際都市といわれた上海でも、日本人の流出が止まらない。中国人と結婚し上海で生活するGさんは、次のように明かす。

「最近は『突然の帰任』が増えていて、日本帰国の挨拶が続くのでちょっとびっくりしています。日本人が多かったマンションからも、くしの歯が欠けるように減っています」

 そのGさんは今年5月、3年ぶりに奈良の実家に一時帰国した。浦東国際空港から関西国際空港行きの便に乗ったGさんだが、空港の様子がこれまでと違うことに気づいた。

浦東国際空港の利用者は専ら中国人

「浦東国際空港にいたのはほぼ中国人で、日本人の姿はほとんど見られませんでした」

 コロナ前の浦東国際空港は、名実ともに世界各国から旅客が集まる国際空港だったが、その様子は当時とはだいぶ異なる。

 日本人の姿が見られないのは、前述した通り、ビザの取得と関係がある。コロナ前までは「ビザなし渡航」のおかげで「3日間もあれば十分な商談ができる」など、中国は気軽に往復できる国だったのだ。

 先ごろ、中国の日系企業などが組織する団体が「ビザなし渡航」の再開を中国政府に要望し、中国外交部領事局はこれに対して、日本側とさらに交渉する意向を示した。ちなみに中国政府はコロナの感染拡大に伴い、2020年3月に「ビザなし渡航」を停止、2023年6月末時点でもそれが続いている。

 中国事情に詳しい都内私大の名誉教授H氏は、次のように分析する。

「外国人を制限したいのは、コロナの発生起源は外国であり、入国を制限することにより自分たちの正当性を主張したい向きもあるのでしょう。文化大革命をほうふつとさせる半鎖国時代に入った中国は、できるだけ外国から人を入れたくない。しかし、入れざるを得ないというところにジレンマが見て取れます」

 一連のビザ申請から見て取れるのは、コロナ前までの中国渡航の常識は通用しなくなっているということだ。コロナ以前は気軽に往来できた中国だが、人の往来が完全復活する日が来るのかは、極めて未知数だと言わざるを得ない。