ごく少数の賃上げしか期待できず
賃下げの可能性もある職務給の導入
次に、(2)個々の企業の実態に応じた職務給の導入。「同じ職務であるにもかかわらず、日本企業と外国企業の間に存在する賃金格差を、国毎の経済事情の差を勘案しつつ、縮小することを目指す」ための措置のようであるが、同じ職務といっても、まさに「個々の企業の実態に応じ」て、その職務の実態は異なるのであるから、同列比較するということ自体おこがましい。
需要が旺盛で、成長している国であれば、賃金が上昇するのは当たり前であり、そのような状況を国が創出すればいいのであって、個別の企業で職務給を導入したところで、どうにかなる話ではない。そもそも、需要が伸びていないか、収縮している経済で、個別企業内で職務給を導入して特定の職務の賃金を増やしたとして、その原資は他の職務の社員の賃金を削ってくるか、何がしかのコスト削減を図るかしかない。
つまりどこかを削ってどこかに付けるということだが、これでは一部の人は賃金が増えるかもしれないが、他の人は賃金が上がらないということになる。これが岸田政権の目指す賃上げであるのであれば、まさに看板に偽りあり、である。
この職務給はジョブ型雇用(人事)とも呼ばれるが、これは職務に対して人を就けるというものであり、その職務の内容や必要とされる能力が明確に定義され、評価基準が設定される。その職務に対して採用なり任用なりされているので、その仕事の実施に徹することが前提である。
士業のような特殊な仕事であれば別だが、年俸制を採るコンサルティング会社のような場合でもチームや組織で仕事をするので、特定の仕事だけしていればいいという話にはならず、人事の評価基準にもチームワーク的なものが設定されることもある。
つまり、職務給の導入が可能な職務は相当程度限定されることが考えられ、その導入によって賃金が上がる人がいたとしてもごく少数になるのではないか。
もしそうではない、職務給になじまない職務に対しても無理やりこれを導入した場合、組織や業務が硬直的になることも想定され、導入したはいいが、返って生産性が低下し、企業の業績が悪化し、職務給の額を引き下げざるを得ない状況になるといったことも考えられるのではないか。