新興国でのビジネスは価格を抑えることが、とても重要
――そもそもなぜ海外進出を考えたのでしょうか。
僕は先進国よりも東南アジアなどの新興国の方が、EVの普及が早く進むのではないかと考えています。
それはまず、新興国は排気ガスのせいで空気が非常に汚い。フィリピンに行ってわかったことですが、マニラではスモッグで空が黒いだけでなく、排気ガスで目の前が真っ白になるほどでした。実際、ベトナムやフィリピンでは排気ガスによる大気汚染が原因で、若くして亡くなられる方が何千人、何万人といる。そのため社会的にも需要があり、政府もEVの普及を後押ししている。
次に、新興国ではガソリンが非常に高価です。東南アジアの工場で働く労働者の月収はだいたい1万円~2万円。しかし、日本で1L=140円で売られているガソリンが、マニラやホーチミンでも120円程度で売られていた。東南アジアの人々にとって、ガソリンは高級品。そのため、ガソリンバイクか電動バイクかの違いは、維持費の面からも非常に大きな差となります。
また、韓国のサムスン電子が、新興国でそこそこの品質のものをリーズナブルで提供する、という戦略で成功しているように、新興国でのビジネスは、価格を抑えることが非常に重要です。我々はベンチャー企業なので、大手のホンダやヤマハほどの品質は保つことは難しく、日本の市場では70点くらいのものしか作れないかもしれない。
しかし、それを新興国に持っていくと150点くらいで評価してもらえるという事情もあります。同じ製品でも海外で売ることによって、その価値が非常に高くなります。
――ベンチャー企業が海外で事業を行うのは、一般的にはリスクが高いと考えられています。
日本でベンチャー企業といえばあまり信頼してもらえず、例えば、時価総額が100あるとしても40くらいにしか評価してもらうことができません。
しかし、東南アジアではそれが300もの価値があると考えてもらえます。日本の会社であるというだけで信頼してもらえている面もありますが、東南アジアでは電動バイクの市場はこれからなので、日本での実績・経験・ノウハウ・人材といった部分の評価が非常に高くなります。
また、意思決定の早さも非常に重要です。大企業は調査に膨大な時間をかけ、なかなか決定せず、一緒にやりにくいと思われている。僕が直接会って話をし、こことここが明確になればイエスかノーかをはっきり出せる、というような素早いわかりやすい交渉をすることで、信頼関係を結ぶことができます。
市場もあり、ニーズもある。もちろんリスクもいろいろありますが、それを考慮しても海外展開する意味は大きい、というのが僕の結論です。