「買い手」がいつのまにか「売り手」に回るライブコマース
成嶋祐介氏
タオバオライブでは、宝飾品から農産物にいたるまでさまざまな商品がライブコマースを通じて販売されています。中でもひときわ目立つのが、差し押さえられた不動産の競売物件のライブコマースです。
中国では、銀行が差し押さえた競売物件の販売を促進するため、最高人民法院(日本の最高裁判所に相当)がタオバオや京東などECプラットフォームと提携したインターネット競売を進めています。
中国のシンクタンク、前瞻研究所の調査によると、2020年の中国全土での不動産競売市場の総成約額は7171億元で、前年にくらべて28.2%も増加しています。長引くコロナ不況もあり、競売物件は今後も増加していくことが見込まれます。
その競売物件をライブコマースで販売することは、不動産仲介業者にとっては大きなコストメリットがあるのです。
対面では1件の物件に対してひとりの顧客しか対応できなかったのが、ライブ配信では同時に何千、何万もの人に紹介できます。また、リアルタイムで視聴者からの質問や指摘に答えることで、これまで顧客への説明に要していたコストと時間を大幅に減らすことができます。同時に、視聴者の信頼度も高まります。
おもしろいことに、物件を落札したユーザーが、購入後に物件のレビューを動画で配信することがあります。購入した物件について「ここは期待以上だった」「ここは購入前のイメージと違っていた」といった本音のレビューを配信することで、今度はそのユーザーへの信頼が高まり、フォロワーがつきます。その結果、ライブコマースの不動産評論家としてインフルエンサーに転身するユーザーもいます。
このように、タオバオライブのようなプラットフォームでは「売り手」と「買い手」の境界がいい意味であいまいなので、双方向のフラットなコミュニケーションが生まれやすく、「買い手」がいつのまにか「売り手」に回ることが起こりえるのです。
「信用スコア」が信頼度の高い情報とフェアな取引を担保
タオバオライブがここまでユーザーの支持を集めているのには、もうひとつ理由があります。それは、グループ内の決済アプリを通じた「信用スコア」です。信用スコアについて、ここで簡単にお話しします。
アリババグループには「アリペイ」という決済アプリがあり、中国のモバイル決済市場において約6割のシェアを占めています。そのアリペイが個人の属性データから購買履歴、税金や公共料金の支払い履歴などのあらゆる決済データを収集・蓄積しており、それらのデータを「セサミクレジット(芝麻信用)」という同グループの信販会社が個人レベルで信用を「スコア化」しているのです。
成嶋祐介 著『GAFAも学ぶ!最先端のテック企業はいま何をしているのか: 世界を変える「とがった会社」の常識外れな成長戦略』(東洋経済新報社)
従来目に見えなかった「信用」を明確な数字で示されることで、人々はなるべく信用スコアを上げるよう、もしくは下げないよう行動しています。いわば、その信用スコアが個人の行動を制御しているのです。
ライブコマースで虚偽の、あるいは間違った情報を流そうものなら、その人の信用スコアはたちまち低下するだけでなく、ユーザーも離れていきます。これ以上の不利益はありません。したがって、そのような不利益につながる行動は誰もとろうとしません。この信用スコアがもたらす行動制御のメカニズムもまた、信頼度の高い情報とフェアな取引を担保しています。
加えて、ユーザー側からしても、アリペイで買い物をしたほうが自分の信用スコアが上がるので、それもアリババグループのタオバオライブを利用する強力なモチベーションとなっています。







