サブリース付きの物件は
売却価格でも不利に

 埼玉でサブリース物件を所有する加藤さん(仮名)は、中抜きの実態について、瀬戸さんよりも突っ込んで調べた方です。

「サブリース会社から入ってくる家賃が少ないと思い、サブリース会社に『家賃の一覧を見せてくれ』って言ったんです。当初は『見せられない』と言ってきたのですが、激しいやりとりの末、レントロールというんですか、家賃の一覧表を出してくれました。ところが、どう見ても入居者の家賃が実際の家賃と違うんですよ。家賃の中抜きをしていることを言いたくなかったんでしょうね。そこで、たまたま入居者の1人が私の知り合いだったので、家賃を聞いてみたんですよ。するとサブリース会社が報告した家賃と実際の家賃がやっぱり違っていたんです。わざわざ虚偽のレントロールを作ってきたんですよ」

 加藤さんが契約したサブリース会社もひどいですが、さらに問題のある業者も存在します。例えば、設備が壊れてから交換するのではなく、数年に1回、アパート全体の温水洗浄便座やエアコンを定期的に交換することで中抜きをしたりするのです。そして不動産の所有者がそれに気付いても、借地借家法に守られているのはサブリース業者なので、所有者個人はなかなか解除できないという、まさに「沼」に入り込んでいる状況なのです。

 そしてサブリース会社と契約する第三のデメリットは、物件の売却に関することです。

 不動産の所有者がサブリースの解除を諦め、でも赤字物件を持っていたくないので、物件の売却をしようとします。ところが売却のときも、契約したサブリース会社を仲介しないと当該物件を売却できないということも多々あるのです。不動産を手離したいのなら、仲介手数料を自分たちに払えということです。

 なお、サブリースが付いた収益不動産を売却するとき、売却価格も下がるということにも注意が必要です。

 売却価格は多くの場合、収益不動産は収益還元法をベースに算出します。

 例えば都内23区内の築20年の木造アパート1棟で、駅徒歩10分強、利回りが約5%の物件があったとします。

 家賃収入が年間1500万円だとすると、物件価格は一般的に、1500万円÷5%で3億円になります。

 しかしサブリースを解除できれば、家賃収入は中抜きがなくなったことで2割ほど増えて1875万円になります。その結果、物件価格は1875万円÷5%で3億7500万円と、大幅に上昇することになるのです。

 不動産所有者にとっては当然高値で売却したいでしょうし、サブリース解除は必須となります。

 投資で負けるのは情報弱者です。

 金融商品などの証券投資であれば、小口化されているので数万円から投資できます。したがって、投資家は少額から始めることで「慣れる」ことができます。しかし、不動産はそうではありません。収益不動産に関しては安くても数百万、普通で数千万、基本的には数億かかる買い物です。

 投資家と業者では情報格差が大きいため、投資の初心者にとってサブリースは「面倒なことは全部丸投げ」できて始めやすいように思います。しかし、おいしい話にはそれ相応のデメリットもあります。

 個人を守る消費者契約法と異なり、業者が守られ個人が守られないサブリース契約は「一度契約すると半永久的にやめられない沼」であることを、投資初心者は肝に銘じておくべきと考えています。