災害時は健康保険証や所持金なしで
病院や診療所で医療を受けられる

 災害が起きても、病院や診療所などの医療機関が診療を続けている場合は、通常通りに健康保険を使って医療を受けることになる。だが、災害救助法が適用された地域では、健康保険を使った医療にも特別な措置が取られる。

 前述のように、日常的に医療を受ける場合は、窓口で健康保険証を提示して、年齢や所得に応じて1~3割の自己負担金を支払わなければならない。だが、避難するのに精いっぱいで、健康保険証やお財布を持ち出せなかったり、紛失してしまったりするケースもある。

 そのため、災害時は、厚生労働省から健康保険組合や医療機関などに対して通知が出され、健康保険証や所持金がなくても、被災者が医療を受けられるようにする特別措置が取られている。

 被災者が病院や診療所を受診する場合は、健康保険証の提示がなくても、氏名や生年月日、連絡先(電話番号等)、勤務先、加入している健康保険組合などを、口頭で伝えるだけで必要な医療が受けられる。

 今回の大雨でも、厚生労働省から関係各所に対して通知が出され、被災者の医療の確保について周知徹底するように呼びかけている。

 また、健康保険法第75条の2(および第110条の2)では、災害時には、本来なら窓口で支払う自己負担金を、健康保険組合の判断で、猶予、減額、免除することが認められている。

 自己負担分の減免が受けられるかどうかは、災害の大きさによって判断されている。東日本大震災では、「住宅が全半壊・全半焼」「主たる生計維持者が死亡・重症」「主たる生計維持者が失職し、収入がない」などの要件に当てはまる人に無料で医療を受けられるようになった。

 無料措置の対象となる医療費は、健康保険が適用されているもので、病院や診療所でかかった医療費のすべてが無料になるわけではない。だが、薬局での薬代や介護保険の利用料なども対象となるなど、幅が広い。

 自己負担分の減免措置は、東日本大震災の要件が踏襲されており、2016年の熊本地震、2019年の台風被害など、大きな災害が起きたときにも同様の対応が取られている。また、都道府県の国民健康保険では、一部負担金の免除のほかに、要件を満たした被災者の健康保険料が減免されることもある。

 このように、災害の発生直後は、(1)避難所や救護所で救護班から無料で医療が受けられる、(2)病院や診療所では健康保険証や所持金なしでも医療を受けられる、というように、災害救助法と健康保険法の2段階対応が行われる。

 つまり災害の発生から当面の間は、お金がなくても医療は受けられるのだ。体調が悪い場合はお金の心配をしないで、救護班や医療機関に相談してみよう。なによりも命が優先だ。

 このところ、日本では、毎年、新しい被災地が生まれている。これまで災害と無縁だった人も、次は自分が被災者になるかもしれない。災害時は医療も柔軟な態勢が取られるが、自分でも簡単な病気やケガの手当ができるように準備しておきたいもの。特に、持病のある人は、日常的に服用している薬やおくすり手帳は、すぐに持ち出せるように、日常的に使っているバッグなどに入れておこう。