企業による新卒社員の獲得競争が激しくなっている。しかし、本当に大切なのは「採用した人材の育成」だろう。そこで参考になるのが『メンタリング・マネジメント』(福島正伸著)だ。「メンタリング」とは、他者を本気にさせ、どんな困難にも挑戦する勇気を与える手法のことで、本書にはメンタリングによる人材育成の手法が書かれている。メインメッセージは「他人を変えたければ、自分を変えれば良い」。自分自身が手本となり、部下や新人を支援することが最も大切なことなのだ。本稿では、本書より一部を抜粋・編集して、「メンタリング・マネジメント」とは何かについて紹介していく。(構成:長沼良和)
メンターとなって組織をマネジメントする
メンタリングとは、自分の生き方を周りの人たちに見せることで尊敬され、メンターと認識されることで、会社や組織をマネジメントしていくことだ。
端的に言うと、共に働いてくれる人材を育成して、あらゆる問題をチャンスに変え、職場を明るくして、強い企業にしていくのがメンタリングである。夢のような話だが、実現可能な手法だ。
目先の成果より人材育成を重視
メンタリングのベースは、「人材を育成すること」にある。
人材育成は目の前の成果だけにとらわれていてはできない。目の前の成果ばかり追いかけていては、だんだん現場の人材は疲弊してモチベーションが落ちていってしまう。
それでは人は育たないし、企業としても成果は出ない。目先の成果にとらわれてしまうと、部下を自分の思い通りに動かすことばかり考えるようになってしまう。
そうなると、上司は細かいところまでコントロールしなければならなくなる。
一方、部下側も「やらされている感」に支配されて、モチベーションは極限まで落ちることになるだろう。
両者にとってマイナスしかなくなってしまう。
そもそも、人材育成とは、上司からの指示がなくても自分で考えて最大の結果を出せるように自発的に動ける人材を育てるということ。
目先の成果ばかり求めるのではなく、人を育てることに意識を向けることがメンタリング・マネジメントの要である。
問題をチャンスに変える「自立型人材」
企業経営をしていくと、様々な問題にぶつかる。その問題解決の積み重ねが企業の成長といっても過言ではないかもしれない。
その問題に立ち向かうのは、そこにいる人材である。上司からの指示だけでなく、現場にいる彼らが自ら考え、試行錯誤して解決できるのが最強の組織といえる。
メンタリングの強みは、自分で考えて動ける人材、いわば「自立型人材」の育成に長けていることである。
スタッフがみな自立型人材に育つと、上司がわざわざ指示を出さなくてもその場で問題は解決される。
さらに、問題を問題で終わらせず、次のステップへの成長のチャンスになるのである。
自立して動けると働くのが楽しくなる
メンタリングによる経営は、職場の雰囲気も良くする。というのも、スタッフは上司から強制されたことをしているのではなく、自分自身で考えて進んで仕事に取り組んでいるから、生き生きと仕事をしている。
そうなると自然と職場は明るくなっていくのだ。
「充実した人生を送るために働いている」
「働くこと、そのものが楽しみ」
「夢の実現に向けて、一歩一歩成長したい」
「ずっと現役で、元気に働き続けたい」
こんなふうに仕事に取り組んでいるスタッフが多くなれば、職場の雰囲気はとても活気に満ちたものになるはずです。(P.108)
メンタリングは、仕事の成果よりも自発的に行動しているかを重視する。
スタッフがひとりひとり自ら考えて行動しようという意識を持つことで、どんなに厳しい環境でも、そこは自分の能力を最大限に発揮するステージになるのだ。
一緒に探検するチームをつくる
メンタリングによって、スタッフみんなが一丸となって目標達成しようとする組織を「意識の組織」という。
「意識の組織」は探検隊のようなものだ。はっきりした目的地があって、そこに向かう道中でいろいろな困難を乗り越えなければならない。
その目的地に行くために集まった仲間は、自立して行動しながらも助け合い、励まし合いながら目的地を目指す。
現状がどんな組織であったとしても、メンタリングで「意識の組織」に変えられるのだ。