日本の労働市場改革に前進の兆し
成長性が高く、より高い賃金が得られる企業に実力ある人材が集まる。その結果、個々の企業の業績が拡大し、経済全体の実力も高まる――。バブル崩壊後、政府はそうした環境を目指して労働改革を進めようとしたが、社会全体で改革への抵抗感は強かった。
しかしここに来て状況は変わりつつある。世界的な物価上昇の中で、従業員の生活を守るためにも、経営者は給料引き上げに迫られている。また、企業が生き残るためにも賃上げは不可避だ。
経団連によると、23年春闘で大手企業の賃上げ率は3.91%と、30年ぶりの高水準だった。中途採用も急増し、労働市場の流動化が勢いづいている。過去最高益を上げながらもリストラに踏み切った塩野義製薬のように、グローバル市場での成長を主眼に改革を断行する企業も増えている。
ファストリが今後、事業や人材に関する改革をどう進めるか、注目は増えるばかりだろう。世界経済の不安定さが増す中、同社が好業績を維持すれば、ますます、賃上げや人事制度の改革が避けられないと考える経営者は増えるはずだ。
日本の経済成長のためには、労働市場の変革が不可避だ。旧来の雇用慣行から脱却できなければ人材流出は加速し、最終的に淘汰(とうた)される企業は増える。労働市場の変革に伴い、そうした短期的な痛みは増えそうだ。ただ、それは必ずしも悪いことではない。
必要なのは、社会と経済全体で再チャレンジの平等な機会を増やすこと。それこそまさに政府の役割というものだ。岸田政権は、人々が新しいキャリアを習得し、能力を磨く支援制度などを拡充すべきだ。それが迅速に実現するか否かが、わが国経済を左右すると言っても過言ではない。