グローバル市場での競争に賃上げは不可欠
ファストリは世界水準で賃金を引き上げ、今後10年で売上高10兆円を目指すという。同社の姿勢は、わが国の企業に、「給料を引き上げることができなければ存続すら難しくなる」との危機感を与えただろう。
バブル崩壊後、わが国では急速に資産価格が下落し、景気は悪化した。多くの経営者がリスクを取った挑戦を恐れ、海外での成長よりも国内市場を重視する企業も増えた。その限界を悟りつつも、成果報酬ではなく年功序列の賃金制度を続ける企業も多い。
日本経済のパイが大きくならなかった結果、過去30年間で日本人の賃金はほとんど増えなかった。OECDの統計「平均賃金」によると22年、わが国の平均賃金は4万1509ドル(1ドル=138円換算で約573万円)で、OECD平均(5万3416ドル、約737万円)の8割弱である。
他方、近隣の韓国や台湾の企業は、人口が少ないこともあって、より多くの需要を求めて積極的に海外に出ていった。典型は、韓国のサムスン電子だ。1993年、当時トップだった故・李健煕(イ・ゴンヒ)氏は、「妻子以外、全て変えろ」と喝破した。徹底した競争原理を従業員に植え付け、常に高い成長を目指す経営風土を醸成するためだ。
その考えに基づき、サムスン電子は家電、メモリー半導体、近年はロジック半導体の受託製造など、成長期待の高い分野に積極的にヒト・モノ・カネを再配分した。イ・ゴンヒ氏の徹底した成長意識の強化が同社の成長に大きく寄与したことは言うまでもない。
対照的に、バブル崩壊後のわが国では高い成長を常に目指す企業が減少した。その結果、わが国経済は、人口減少もあって縮小均衡している。2010年には経済規模で中国に追い抜かれた。近年はインドの追い上げも加速している。新卒一括採用や終身雇用といった旧態依然とした雇用慣行では、日本企業がグローバル市場で成長することは難しい。ファストリはそうした危機感から大幅な賃上げに踏み切ったに違いない。