国内に先んじて海外で給料引き上げ

 ファストリの業績は、主に海外事業の増収増益によって成長を続けている。地域別に見ると、特に中国事業の回復が大きい。マクロ経済の視点では、中国の近況はかなり厳しい。不動産市況が悪化し、生産活動は停滞。若年層の雇用、所得環境も悪化している。そんな中で、同社が増収増益を確保したことは大きな意味がある。

 中国大陸のユニクロ事業が想定以上の回復となった背景について、岡﨑健CFOは、「コロナ禍においても、マーケティングやブランディング、給与水準の引き上げや採用などの投資を続けてきたことが、市場の回復期に需要をきっちり取り込むことができた」と説明している。

 海外でユニクロは、価格以上の満足感を得られる商品を消費者に提供し、高い支持を得ているようだ。中国だけでなく、欧米や韓国、東南アジア、インドなどの収益も増加している。

 給与水準の引き上げについてファストリは1月、国内従業員の年収を平均15%、職種によって最大40%引き上げると発表した。賃上げが重要なキーワードになっているわが国企業の中でも、群を抜いて積極的な取り組みだ。雇用形態にかかわらず、一人一人が自己実現を目指しやすい環境も整備するという。

 思い切った施策が打てるのは、同社がオーナー企業というのもあるだろう。一般的に創業家出身の経営トップにとって、自社の成長鈍化は資産などあらゆる持ち物を失うことにつながりかねない。ファストリの柳井正会長兼社長は、優秀な人材を確保し、従業員の成長意欲を高めることこそが、組織の長期存続に不可欠と考えて賃上げに踏み切ったはずだ。

 給料が増えてうれしくない人はいないだろう。成果に応じて報酬が増えれば、人のやる気はさらに高まる。新しい理論や方法を習得するなど、個々人の成長志向が高まれば、組織としての力も増す。

 グローバル市場で企業が業績を拡大し、長期存続を目指すためには、競合他社を上回る賃上げを実行し、個々人の成果により報いることが欠かせない。組織全体で競争原理が発揮され、効率性の高い分野にヒト・モノ・カネが再配分される――。これは、資本主義経済が成長する、いたって基本的でシンプルなメカニズムだ。