ユニクロやGUを展開するファーストリテイリングの業績が好調だ。同社は世界水準で賃金を引き上げ、今後10年で売上高10兆円を目指すという。そうした姿勢は日本経済を鼓舞すると同時に、多くの日本企業に、「給料を引き上げることができなければ存続すら難しくなる」との危機感を与えるはずだ。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
ファストリ最高益と賃上げ
ユニクロやGUなどのアパレルブランドを展開するファーストリテイリング(以下、ファストリ)の業績が好調だ。2023年8月期通期の業績予想を上方修正し、売上収益を従来予想の2兆6800億円から2兆7300億円(前期比18.6%増)に、営業利益を同3600億円から3700億円(同24.4%増)にそれぞれ引き上げた。いずれも過去最高を見込むという。
また、ファストリは3月、国内従業員の年収を平均15%、職種によって最大40%引き上げた(この件を発表したのは1月)。従来の役職手当を廃止するなど、組織全体で競争原理を徹底し、個々人の実績などに応じて賃金が上がる仕組みをスタートさせた。
この効果が、好業績と無関係というわけでは、ないだろう。賃上げは国内だけでなく、世界各国で先んじて行っていたという。そうすることによって、長期化したコロナ禍にあっても、各国の消費者が「欲しい」と思う商品を創出する体制を強化していたのだ。
世界のカジュアル衣料品市場では、スペインのZARAやスウェーデンのH&Mなど強力なライバルがいる。ファストリが国際市場で勝つためには、魅力ある水準に給料を引き上げ、優秀な人材を増やさなければならない。
同社の賃上げは大々的に報じられ、国内の他社にも大きな影響を与えたはずだ。高成長を目指して給料を引き上げ、中途採用も強化するわが国企業は増えつつある。それは、労働市場の流動性を高め、成長期待の高い分野に経営資源であるヒト・モノ・カネの再配分を促すために欠かせない、良い変化だ。