保険会社には「価値創造の瞬間」が感じられない

 本当は、保険金を受け取ってうれしい人はいない。保険金を受け取るということは「病気をした」「事故が起きた」など何らかの悲しい出来事が身の回りに起きているからだ。アニコムの小森伸昭社長は、事故や病気を予防することを「涙を減らす」こととし、その「涙を減らす」ことを新たな保険会社のミッションに掲げた。この企業コンセプトの背景には、従来の保険業の付加価値創出に対する強い問題意識があった。

 保険の基本機能は、リスクに対する相互扶助にあるといわれる。つまり加入者全体で悲しみに出合った人に対する補償を支える。これはこれで大事な機能だ。だが保険があっても病気や事故などの社会のリスクそのものは増えもしないし減りもしない、すなわち保険はリスクに対して中立的なものと考えられてきた。

 だがはたしてそれでいいのだろうか、と小森社長は思った。保険会社には、たとえば鉄鉱石が高級車に変わるようなダイナミズムや価値創出の瞬間が感じられない。あの保険に入ったから、 「健康になった」「キレイになった」「女の子にモテた」などという話も聞かない。本当は、保険によってガンが減ったとか、事故が減ったとか、社会目標に能動的に貢献すべきではないか。保険会社は事故の類型化と分析をやっているのだから、二度と同じ轍を踏まないように社会に情報を提供することで、リスク自体を減らすことができるはずだ。事故が減少した方が、保険の利回りも良くなるはずだ。

飼い主の「涙を減らす」ペット保険

 これを実現する第一歩として、小森社長は、ペットという保険分野を選び、そこで動物の疾病に関するビッグデータを分析し、契約者へOne to Oneで情報提供するという予防型保険サービスに挑戦している。

 ペット分野を選んだのは、人間ほど、プライバシーを気にすることなく大量のデータが収集できるためでもある。何を食べているか、体重はどのくらいか、どんな血統か、どんな病歴があるか、どんな性格か、動物のこうした情報とアニコムのペット保険の年間200万件におよぶ保険金支払いデータをうまく活かせれば、予防型のアクティブな保険サービスができる。

 たとえば犬の種類や年齢などから、かかりやすい病気、起こしやすい事故などが見えてくるので、メールや電話で契約者にお伝えする。犬にも人間と同じようにジェラシー、甘えなどの心理があるので、そのペットの性格や心理も踏まえて会話する。たとえば、気性の荒い犬種で注意が必要なときには、「男気があるから注意して下さいね」というように伝える。契約者からは「ペットとの絆が深まった」といった声も寄せられている。