EU外相の訪中をキャンセル、
米財務長官の訪中にも姿を見せず

 中国首脳の日常は公式活動がない限りほとんど公開されないので、海外のウオッチャーも日々の動向にはそれほど神経をとがらせることはない。だが、そうした人々が「あれ?」と引っかかった出来事があった。7月4日、EUが、その翌週に予定されていたジョセップ・ボレルEU外務・安全保障政策上級代表(外相に相当)の訪中と、秦剛外相らとの面談が、突然中国側によってキャンセルされたと発表したのだ。EU側は「予定されていたスケジュールの調整が難しくなった」とだけ伝えられたことを明らかにした。

 今や米国との関係がもつれにもつれている中国にとって、EUは最も懐柔したい相手である。4月にボレル氏らの訪中予定が発表された直後には、秦剛外相(当時、以下同)自らドイツ、フランスなどを訪れ、大々的に中国とEUの関係が良好であるとアピールしていた。さぁ、今度は中国に彼らを迎えて大々的に……という矢先、中国が相手の訪中をキャンセルしたというのだから、尋常ではない。

 それをキャンセルするネガティブな要素として思いつくものもなく、外交筋は首をひねった。それが次第に秦剛の「不在」と結び付き始めたのが、7月7日から9日にかけてのジャネット・イエレン米財務長官の訪中だった。中国どころか世界中のメディアが、彼女が中国を訪れる前から中米関係打開の一歩になるかどうかを喧々囂々(けんけんごうごう)と論じていたのに、その訪中期間中に、前駐米国大使でもある新外相の秦剛が、姿を現さなかったのだ。

 史上最悪といわれる米中関係の真っ最中に、米国の財務長官が訪中したというのに、外相抜きにスケジュールが進められるなんてあり得ないことだ。これによってウオッチャーたちはハッと、「秦剛の身に何かが起こったのだ」と確信した。

 続く7月11日、外交部の定例記者会見で報道官が、この日ジャカルタで開幕したASEAN+3外相会議にも、「健康上の問題」により秦外相に代わって王毅・政治局員(外交担当)が出席すると発表。これは秦剛が表舞台から姿を消していることを初めて中国政府が公式に認めた形となった。

 このとき一部で「秦氏はコロナに感染した」といううわさも流れた。しかし、すでにワクチンもある現在、2週間以上も表に出て来られないはずがない。本当に健康上の問題ならどれほどの大病なのか?だとしたらしばらくは復帰不可能ということではないのか? それとも病気ではなく他の理由ではないのか?……と詮索が始まり、ネットでも次々にゴシップが飛び交い始めた。