いまビジネスの世界で話題をさらっている生成AIの登場で、これまで「知」とされてきたものの価値が揺らいでいます。そのため、これからの時代を生き抜いていくためには、単なる知識の暗記や積み上げではない、「AIにできない思考」を実践する必要があります。
そのとき大切なのが、物事について「なぜそうなのか?」を徹底的に考え抜いていく「クリティカル・シンキング」です。
そこで今回は、「マーケティングとはそもそも何か?」を分析することを通じて「クリティカルに考える」ことを実践してみせた新刊『新マーケティング原論』著者・津田久資氏にご登壇いただいた本書刊行記念セミナー(ダイヤモンド社「The Salon」主催)で寄せられた質問への、津田氏の回答を公開します。

【言葉づかいでバレる】「自分の頭で考えている人」と「思考停止している人」の決定的な違いPhoto: Adobe Stock

Q. 「自分の頭で考える」クセをつけるには?

読者からの質問 考えることが苦手な人・嫌いな人に、苦手意識をなくしてもらい、行動する前に立ち止まって思考するクセをつけてもらうには、どのようなアクションをするのが有効でしょうか?

津田久資氏の回答 「苦手な人」とは「能力」に欠ける人です。よって、苦手意識をなくすためには、能力を上げる必要があります。他方で、「嫌いな人」とは「やる気」に欠ける人です。つまり、本来は別の話です。

 しかし、一般には「やる気」があって初めて、「能力」を獲得しようとする努力は始まります。能力だけあってやる気のない人というのは、あまり存在しないでしょう。

 ということは結局、苦手意識をなくすために必要なのは、①まずは「やる気」を高めておき②そのうえで「能力」を向上させるステップだということになります。

◆(1)やる気の向上◆
(アメ)
 やる気は、指導者がファシリテイトする(刺激を与える)ことで、強制的に高めることができます。簡単に言うと、つきっきりで指導してもらうということです。

 これは比較的、実践しやすいと思います。指導者本人の意識がそれほど高くなくても、傍目から見ると他人のことはわかりやすいので(いわゆる岡目八目)、外から考えさせることができます。そうやって何か成功体験をつくる機会を持ち、褒めてもらうことが有効だと思います。

(ムチ)
 これからの時代は、考えることをしないと、AIに取って代わられてしまいます。そういう事実を、具体的に啓蒙することが有効だと思います。

思考停止している人は、国語力が低い

◆(2)能力の向上◆(→そう簡単なことではありませんが…)
 ここでは、あくまで「論理的思考」の能力のみを取り上げます。論理とは、「言葉のすじみち」です。つまり、論理的思考力とは「文章力」と言っても過言ではないのです。

 ここで、英語の文章力、つまり、英作文力を想定してみましょう。この能力を高めようとするときには「単語の学習」「文法の学習」「例文の暗記」などが必要になるはずです。

 同じことが日本語の文章力でも言えます。日本語で文章をつくる能力がある人というのは、日本語でも同じように「単語の学習」「文法の学習」「例文の暗記」をちゃんと実行してきた人なのです。ところが普通、多くの人は日本語を「なんとなくわかる」で済ましています(本当は「なんとなく」もわかっていないのですが…)。

 ですから、文章力(=論理的思考力)を高めたい人には、「外国語だと思って日本語に向き合え」とアドバイスすることにしています。極論すると「日本語だと思うな」ということです。

 みなさんは学生時代に「古文」を勉強したと思いますが、古文の成績のいい人というのは、これを外国語だと思って勉強した人です。古文のなかにも現代語に近い単語がたくさんありますが、それを「なんとなくわかる」で済ましていると、もちろんいい成績は取れません。

 そういう態度が抜けない人は、たとえ母語であろうとも、本当は理解していないのです。理解できてないレベルのものを自ら文章化する=考えることができないのは自明です

(本稿は、ダイヤモンド社「The Salon」主催『新マーケティング原論』刊行記念セミナーで寄せられた質問への、著者・津田久資氏の回答です)