2023年10月からインボイス制度が始まります。「増税ではないか?」「経理の手間が増え、負担が増大する」など、さまざまな意見が出ています。そのインボイス制度の影響を強く受けるのが「ひとり社長」です。しかし、業種・業態・売上規模によっては、「インボイスに登録しないほうがいい」と提案できるケースもあり、戦略的な選択が求められる制度ともいえるのです。
本連載は、経費精算から決算・申告まで、ひとり社長の経理の基本を学ぶものです。著者は、税理士の井ノ上陽一氏。インボイス制度、電子帳簿保存法に完全対応の『【インボイス対応版】ひとり社長の経理の基本』の著者でもあります(発売は8月2日)。「ひとり社長なら、経理はこれだけでいい!」とポイントをおさえた1冊になっています。
「インボイス未登録の会社からの請求書は、経費にできない⁉」
経費とインボイスの勘違いに注意!
インボイス後は、「請求書やレシートをしっかりチェックしなければいけない」ということを見聞きしているはずです。
また、「仕入税額控除ができなくなる」という言葉も見かけるかもしれません。「税額控除ができない=損をする」というイメージもあるでしょう。
さて、インボイスに関する勘違いで多いのは、「インボイスに登録していない人(会社)からの請求書やレシートだと、一切経費にできない」です。
「仕入税額控除ができなくなる」のは事実です(2023年10月1日から段階的にできなくなります)。ただし、これは納める消費税の話であり、一部の方のみに該当する事実でしかありません。その一部の方とは、
・消費税を納める方(インボイスに登録している、2期前の課税売上高が1000万円超などといった場合)=課税事業者
・消費税の計算方法で原則課税を選んでいる
このすべての要件を満たしている場合のみです。
「消費税を納めていない免税事業者」や「消費税を納める課税事業者であり、消費税の計算方法で簡易課税や2割特例を選ぶ場合」には関係ありません。
たとえば、11万円の経費がある場合、相手先がインボイスに登録していてもしていなくても、経費になるのは11万円です(税込経理の場合)。
納める消費税の計算では、11万円(うち消費税1万円)の場合で原則課税なら、相手先のインボイス登録により、次のように変わります。
・相手がインボイスに登録しているなら、1万円
・相手がインボイスに登録していないなら、8000円(1万円のうち80%。2026年9月30日が属する期間まで)
これらをそれぞれ引くこととなります。
まとめると、相手先がインボイスに登録しないことで、経費に関して金銭的に損をするのは、「課税事業者かつ、原則課税の場合」のみです。
(本原稿は井ノ上陽一著『【インボイス対応版】ひとり社長の経理の基本』から一部抜粋・追加加筆したものです)