開発テーマは「原点回帰」
レトロフィットではなく、未来に向けた変革
いまや、ランドクルーザーは世界170カ国向けに販売される、名実ともにトヨタのワールドカーだ。
ただし、そう言われても、なんだかピンとこない人が少なくないのではないか。
「プリウス」や「カローラ」といった、トヨタの定番製品と比べると、ランドクルーザーは一般的に「特殊なクルマ」というイメージが強く、庶民にとって「身近な存在ではない」からだ。
実際、ランドクルーザーは、見かけは最近はやりのSUVだが、設計思想は過酷な使用環境を踏まえた、ヘビーデューティーモデルである。ハンフリーズ氏は会見で、アフリカ奥地での医療活動や南極の観測隊など、ランドクルーザーを使った過酷なユースケースを紹介し、ユーザーのランドクルーザーへの要求が「どこへでも行き、生きて帰ってこられること」とまで言い切った。
一方、同じランドクルーザーファミリーの中でも、日常使いをより重視した、ライトデューティーな製品を目指してきたのが、ランドクルーザー「プラド」だ。
豊田章男社長(当時、現会長)は、新型ランドクルーザーの開発陣にこう提案したという。
「ランドクルーザーは人々の生活、地域社会を支えるクルマであるべきで、より多くの人の生活を支えるライトデューティーモデルはお客さまが求める本来の姿に戻す必要がある」
これを受けて、開発陣が掲げた開発コンセプトが「原点回帰」である。
では、ライトデューティーなランドクルーザーの「原点回帰」とは何か?
ランドクルーザーの歴史をたどれば、90年の「プラド」登場がそれにあたるように思える。しかし、トヨタが目指したのは、単にライトデューティーのみの原点回帰ではなく、ランドクルーザーという製品全体を見直すということだという。
だが、ランドクルーザーのトップカテゴリーである「300」が21年に登場しており、それから2年後のタイミングで「原点回帰」と言われても腑(ふ)に落ちない。
背景にあるのは、「トヨタの歴史が今、大きく変わる」というタイミングにあることだ。自動車産業界は「100年に一度の大変革」に直面しているといわれて久しいが、今まさに大変革の真っただ中にあるのだ。
CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング&サービス、電動化の四つの技術トレンド)のみならず、エネルギー安全保障の観点から欧米中が政治的な綱引きを繰り広げている。
そうした中で、「トヨタの歴史そのものである、ランドクルーザー」が今、大きく変わる必要があると、トヨタ経営陣は判断したといえるだろう。
記者会見後、23年4月からのトヨタ新経営体制の中で、技術領域を束ねるCTO(チーフ・テクニカル・オフィサー)である取締役・執行役員・副社長の中嶋裕樹氏と簡単に意見交換をした。
直近では23年6月に、トヨタ東富士研究所でさまざまな次世代技術を紹介した「トヨタテクニカルワークショップ2023」で明らかになったような、BEV(電気自動車)や水素関連の事業を急加速するトヨタの事業方針と、今回の新型ランドクルーザー登場の経緯との関係性について聞いてみた。
これに対する中嶋氏の回答を、筆者なりにまとめるとこうなる。
トヨタの新車開発はこれまで、前モデルのカイゼンが大前提だった。だが、時代の大きな変化に直面している今、今回のランドクルーザーに見るように抜本的な変革が必然だということだ。
ある意味で、これまでのモデルイメージを大きく壊すことも必要、という見解である。
その上で、原点回帰とは単純に原点に戻るのではなく、原点に戻るという覚悟で広い視野で現在の社会の状況を俯瞰(ふかん)し、変わる必要があれば大胆に変える、という解釈だ。
要するに、企業として、さらに大きく変わるというトヨタの意気込みを、グローバルカーであるランドクルーザー「250」で具現化したといえるだろう。
また、今回のプレゼンテーションの最後に、3ドア車のように見えるモデルと、ホイールベースがかなり長い大型SUVのようなモデル、さらに二輪車のようなモデルのシルエットが映し出された。
これらも、「ランドクルーザー」ブランドのファミリーに属するらしい。
詳細については23年10月から11月にかけて都内で開催される、ジャパン・モビリティ・ショーでお披露目される可能性がある。
トヨタとしては、これまでのランドクルーザーのブランドイメージを壊すほどの、ランドクルーザー大変革に着手しているのだ。