アジャイルがうまくいっていると勘違いしている人へphoto AC

ソフトウェア開発から始まった「アジャイル」は、いまやプロダクト開発にとどまらず、ビジネス全般のアプローチとして定着しつつある。書籍『アジャイルに困った時に読む本』では、15年、50案件以上のアジャイル開発の経験を持つ著者がさまざまなヒントを公開。「理屈」や「理想」だけではない、多くの開発現場で実践してきたからこそ見えてきた「現実」に役立つアジャイルの極意を紹介している。

「異常なし」が続くことの「異常」を見逃すな

 デイリースクラムの目的は、状況の変化に気づくことです。そして、日々仕事をする中で、何も起こらないことはまずあり得ません。デイリースクラムで皆が口を揃えて「問題がありません」という状態、タスクボードでいつも綺麗に予定していたタスクが終わっていたり、ニコニコカレンダーで何日もずっと同じニコニコマークが並んでいるような状態は「異常」だと考えましょう。従来型開発でも、WBSに「オンスケ」が並ぶとまずいことになっているのにそれに気づかないことが多い、というのは定説ですが、それと同じです。

 原因の1つとして、デイリースクラムの場が、心理的安全性が低下した状態にあることが考えられます。参加しているチームメンバーが、批判や叱責を恐れて、困っているのに「困った」と言い出せない状態になっていないか、相談や助け合いができる雰囲気がなくなっていないか、あるいは、メンバー間の会話が極端に少ない状態になっていないか注意してみましょう。そういう雰囲気を変えるために私たちがしている工夫をいくつか紹介します。

◎仕事以外の雑談をする時間を設ける

 雑談によって、「この人はどんな人か」が少しずつわかってくると、話がしやすくなるものです。デイリーミーティングの最初に短時間のアイスブレイクを設けたり、持ち回りで小話をすると雑談しやすくなります。毎日短い時間でも継続できるのが、デイリーミーティングに雑談を取り入れることの良いところです。

 特にリモートの場合、顔を合わせていない分、雑談の機会は失われがちなので、デイリーミーティングやふりかえりで意識して雑談の時間を取ります。

◎ファシリテーターを持ち回り制にする

 ファシリテーターを特定の人がやっていると、ファシリテーター以外の人は会議の運営上、何に困るのかに気づけません。たとえば、発言を促しても積極的に答えてくれないのは困りますし、他の人の発言を頭ごなしに否定する人がいたら心理的安全性が失われてしまいます。

 全員が持ち回りでファシリテーターをやれば、どんな行動が会議の心理的安全性を損なうのかに自分ごととして気づけ、自分がファシリテーターではないときも配慮した行動を取れるようになると期待できます。

◎スーパー定時宣言(今日は何があっても絶対定時で帰る)の導入

 特に忙しくて残業が多くなりがちなチームでは、「全員が必ず週1回宣言する」ルールにすると効果的に使えます。宣言が出ると場が和みますし、チームメンバーが「この人は今日は早く帰る」と意識して、自然とコミュニケーションを取りながら協力するようになります。

 もちろん、宣言した本人はいつもより早く仕事を終えて身体の疲れを取り、心をリフレッシュできます。本来は残業を常態化しないようにするべきですが、残念ながらアジャイルなのに持続可能なペースを維持できていないチームには、その解消の糸口としてお勧めです。

◎声が小さい人(あまり話さない人)から発言してもらう

 誰も意見を言っていない、まっさらな状態で話してもらうことで、他の人が何を言ったかを気にせず発言できます。「他の人と違うことを言わなくては」「あの人に反対する意見は言いにくい」など、いろいろと考えずに話せる状態を作ります。

 心理的安全性が担保された場では、メンバー全員が遠慮なく発言できます。わからないこと、困ったことをそのまま発言できるので、変化に気づきやすくなります。