アジャイルをこれからやろうと思っている人へphoto AC

ソフトウェア開発から始まった「アジャイル」は、いまやプロダクト開発にとどまらず、ビジネス全般のアプローチとして定着しつつある。書籍『アジャイルに困った時に読む本』では、15年、50案件以上のアジャイル開発の経験を持つ著者がさまざまなヒントを公開。「理屈」や「理想」だけではない、多くの開発現場で実践してきたからこそ見えてきた「現実」に役立つアジャイルの極意を紹介している。

その「アジャイル」本当に必要ですか?

「アジャイルでやればシステム開発はうまくいく」「DXの時代、アジャイルを取り入れない企業は生き残れない」などなど、何でもかんでもアジャイル開発で行うのが正義であるかのように言う人たちがいます。

 最近は、お客さまから「次の開発プロジェクトはウォーターフォールでやるつもりだったが、時代に乗り遅れないためにプロジェクトの特性に関係なく、とにかくアジャイル開発を取り入れたいので相談に乗ってほしい」と言われることが珍しくありません。

 やることが全て決まっていて変更が起き得ない、ウォーターフォールの方が明らかに向いているプロジェクトでも「これからのモノづくりはアジャイル開発で」と決め打ちしているのです。

 そう言う人はおそらく、これまでにウォーターフォールでいろいろと失敗してきた自身や周囲の経験から、「ウォーターフォールは時代遅れで古いアプローチ、アジャイルの方が新しくて良いアプローチ」と誤解しているのです。

 ユーザーの要求仕様を明確にシステム仕様に落とし込めて変更が発生しないプロジェクトであれば、予測型アプローチのウォーターフォールが向いていますし、確実です。一方、ビジネス環境や技術の変化が激しく、「今決めたことが来週には覆るかもしれない」プロジェクトは、ウォーターフォールではとても対応できず、アジャイルの方が向いているでしょう。重要なのは、目の前のプロジェクトはどちらが向いているかを適切に見極めることです。

意外と知らない「アジャイルマニフェスト」

 アジャイル開発の背景にある考え方を記した「アジャイルマニフェスト」というものがあります。しかしその存在や内容を知っている人は意外に少ないようです。これからアジャイルの学習や実践に取り組む人はもちろん、すでに取り組んでいる人の中にも知らない人が多いのが実態です。

 以下のような「アジャイルによくある誤解」は、アジャイルマニフェストを理解していないことから起こっています。

・アジャイルにドキュメントはいらない

・アジャイルに計画はいらない

・アジャイルは早い、安い

・アジャイルは万能である

・アジャイルでは無制限に仕様変更が許されるので開発者の仕事量は増え続ける

 読者の中にも、このような誤解をされている方は少なからずいらっしゃると思います。それがアジャイル開発に取り組んでもうまくいかない理由となっていることは少なくありません。

 アジャイルチーム全員がアジャイルマニフェストの内容を理解すれば、アジャイル開発のイベントや進め方がなぜそうなっているのかを理解し、正しく判断できるようになります。ぜひ一度、皆で内容を確認し、意識合わせすることをお勧めします。