三井物産「Tokyo-1」Photo by Hiroyuki Oya

ChatGPTなどの生成AIのブームに伴い、米エヌビディアのAI向け半導体は世界で争奪戦になっている。そうした中、三井物産はエヌビディアと協業して半導体を確保し、国内の製薬会社向けに計算資源や創薬のためのAI技術などを提供するサービスを始める。既にアステラス製薬など3社が顧客に名を連ねる。三井物産はエヌビディアと組み、どんなビジネスを狙うのか。(ダイヤモンド編集部副編集長 大矢博之)

三井物産はエヌビディアと組んで
製薬会社に最新のスパコンを提供

「創薬を変革する最先端のGPU(画像処理半導体)スーパーコンピューターを提供します」――。

 7月5日、三井物産本社9階の会議室。集まった複数の製薬会社の担当者に向けて、三井物産ICT事業本部の阿部雄飛デジタルヘルスケア事業室長は、こうアピールした。この日開催されたのは、三井物産が米半導体大手エヌビディアとの協業で始めるAI創薬支援サービス「Tokyo-1」プロジェクトの説明会だ。

三井物産とエヌビディアが進める「Tokyo-1」を製薬会社に売り込む、三井物産ICT事業本部の阿部雄飛デジタルヘルスケア事業室長三井物産とエヌビディアが進める「Tokyo-1」を製薬会社に売り込む、三井物産ICT事業本部の阿部雄飛デジタルヘルスケア事業室長(中央右)とエヌビディアの平畠浩司マネージャー(同左) 提供:三井物産

 ChatGPTなどの生成AIブームで勝ち組とされるのが、AI半導体の“王者”エヌビディアである。1993年創業の“老舗”で、パソコンやゲーム機などに使われるGPUを得意とし、任天堂のゲーム機「ニンテンドースイッチ」にも採用されている。

 このGPUがAIの学習に効果的だと判明したことで飛躍を遂げ、今やAI向け半導体の世界シェアは8割以上と一強の地位を構築。時価総額も1兆ドルを突破した。エヌビディアのAI向け最新GPU「H100」は1個約470万円(受注開始時の参考価格)と超高額だが、生成AIを開発したい世界のテクノロジー大手が争奪戦を繰り広げている。

 そんな引く手あまたのエヌビディアと、三井物産は3月に協業を発表。品薄状態が続くH100をTokyo-1のために80個確保し、製薬会社やバイオベンチャー向けにスパコンの計算資源や創薬のためのAI技術などを提供するサービスを始める。9月にコミュニティーを立ち上げ、スパコンの稼働は12月の予定だ。既に顧客としてアステラス製薬、第一三共、小野薬品工業の3社を確保した。

 これらの顧客は、三井物産とエヌビディアが二人三脚で開拓したものだ。次ページでは、三井物産がエヌビディアと協業に至った背景や、今後の野望に迫る。