報告、連絡、相談、商談、提案、プレゼン……。日々、大量の情報が飛び交うビジネスの現場では、「伝える力」がますます重要になってきている。すぐに思い浮かぶのは、話す力や書く力だろう。だが、日本では大事なスキルが教えられておらず、軽んじられている、というメッセージを発してベストセラーになったのが、『超・箇条書き――「10倍速く、魅力的に」伝える技術』だ。
箇条書きは、シリコンバレーや戦略コンサルティング会社などで「短く、魅力的に伝える」ツールとして、あらゆるシーンで使われているという。“たかが”箇条書きこそ最強のスキル、という本書のエッセンスをお届けする。(文/上阪徹)

「考えが浅い人」の超残念なプレゼン、デキる上司はどうアドバイスする?Photo: Adobe Stock

ある新入社員の所信表明はなぜダメだったのか?

 世界のビジネスシーンでは、当たり前に使われているのに、日本では軽んじられ、教えられることもない「短く、魅力的に伝える」ツール「箇条書き」。これこそ最強のスキルだ、というメッセージを発信してベストセラーになっているのが、『超・箇条書き』だ。

 著者の杉野幹人氏は東京工業大学を卒業後、NTTドコモを経てビジネススクール、INSEADでMBAを修了。米国シリコンバレーで外資系のコンサルタントとして、グローバルビジネスの第一線の人たちと仕事をしてきた。

 キャリアの過程で、伝えることが傑出して上手い人たちと出会い、箇条書きの重要性を強く認識したという。そして「短く、魅力的に伝える」箇条書き、人を動かす箇条書きを、著者は「超・箇条書き」と呼ぶ。

 そのために必要な3つの技術が「構造化」「物語化」「メッセージ化」だ。三つめの「メッセージ化」とは何か(1つめの「構造化」は前々回の「【一瞬でバレる】伝え方が『下手な人』に共通する残念な特徴」、2つめの「物語化」は前回の「超多忙な上司が一発OKを出す『生々しい箇条書き』とは?」をご覧ください)。

 営業現場での研修を終え、マーケティング部に配属された新入社員Aさんの所信表明のフォーマットが、箇条書きのスライドだった。

ダメな箇条書き<私の約束:6カ条>

 

●お客様に喜んでいただける新商品をつくります
●差別化された新商品をつくります
●自分の信じる新商品をつくります
●できるかぎり数多くの新商品をつくります
●一生懸命に効率的に業務を実行します
●すべてのことで自分のベストを尽くします

 さて、なぜこれがダメな箇条書きか、おわかりになるだろうか。

「こいつは使えない」すぐバレる書き方の特徴

 もし、この所信表明を見たら、それもマーケティングに精通しているデキる社員が聞いたら、「ああ、こいつは使えないや」と思うだろう、と著者は書く。理由は、ここに、まったく新しい情報がないからである。

 一見したところ、もっともらしいが、それまでなのだ。当たり前のことばかりで、先輩社員の心に響くものは何もないからである。

 ここで活かすことができる技術が「メッセージ化」だ。自分の意思をはっきりさせる、ということである。一般的なこと、無難なこと、当たり前のことを言わない。これを著者は「スタンスをとる」と記している。

 そして、そのための3つのコツのうちの1つが「隠れ重言を排除する」だ。

「隠れ重言」とは、文のなかでは重複はないが、そのコンテキストを踏まえると重複していて、わざわざ伝える意義がないものだ。このため、それを伝えられた人もたいした意味を見出すことができない。
 伝える情報量に限界があるのに、「隠れ重言」で箇条書きを埋めてしまうのは、とてももったいないことだ。
(P.133-134)

 一般的には「顔を洗顔する」「頭痛が痛い」などが「隠れ重言」だが、言葉の重言ではないものの、相手の状況によっては内容が重言のようになってしまうことがあるのだ。まさに、ダメな箇条書きがそうだろう。

 マーケティング部の先輩たちに、わざわざ言う必要がないことを、伝える意味がないのだ。

 では、「隠れ重言」を排除したら、箇条書きはどうなるか。

<私の2つの約束>
●自分の信じる新商品をつくります
●数多くの新商品をつくります

 6つあった約束は2つになってしまったが、約束の数が多ければいいわけではない。意味のないことを伝えるくらいなら、伝えないほうがいい。ポイントを絞って伝えることで、相手はそのポイントに集中して聞いてくれる。むしろ、心に響くメッセージになるのだ。

 本書は図示された「ダメな箇条書きの例」が、技術によってみるみる進化していくプロセスが見られることが大きな特徴だが、「メッセージ化」はまだ完成系ではない。

 残り2つのコツ「否定を使う」「数字を使う」が活用されるのである。

心に響く秘策「否定を使って退路を断つ」

 もっともらしいが、当たり前。まったく新しさもなく、心に響かない。そんな内容を「メッセージ化」で変えていくコツの一つに「否定を使って退路を断つ」があると著者は説く。

 否定を使って退路を断つとは、「何を否定しているのかを明示してしまう」ことだ。そうすることで、立ち位置をはっきりさせる。

 新入社員Bさんが来年の抱負を伝えるときに、次のように報告したらどうなるか。

・生産性を上げる
・衝突をいとわない

 しかし、これではあまりに普通である。これではBさんの立ち位置がわからない、と著者は書くが、そうとられかねないときに「否定」を使うのだ。

 何かを伝えようとするときには、つい「何をするか」に焦点を当てがちだ。逆に、「何をしないか」に触れるのを忘れがちになる。この「何をしないか」を明示して強調することで、「何をするか」の意図を伝えるのだ。(P.144-145)

 先のBさんの来年の抱負に否定を加えるとどうなるか。

・長時間労働に走るのではなく、生産性を上げる
・無難な道を選ぶのではなく、衝突をいとわない

「否定」を効果的に使ったことによって、読み手の受け止め方がどれくらい変わったか、よくわかる。「否定」を加えるだけで、同じ豊富がまったく別のものに見えてくるのである。

 本書では、「否定」の技術をうまく使った事例としてソニーの「開発18カ条」が紹介されている。なるほど、この技術の強さがよくわかる。

「メッセージ化」の3つ目のコツ「数字を使う」が加わったら、マーケティング部の新入社員Aさんの「私の約束」が、どんな「超・箇条書き」に生まれ変わったか、ぜひ本書で確かめてみてほしい。

「超・箇条書き」の技術は、スライド作りやライティングにも活かせることも記されているが、講演をしたり、書くことを生業としている人間として大いに共感するところである。

 最後に、本書はあっという間に読めてしまえることも付け加えておく。これも「超・箇条書き」の技術を使ったがゆえ、なのだと思う。

(本記事は『超・箇条書き――「10倍速く、魅力的に」伝える技術』より一部を引用して解説しています)

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『マインド・リセット~不安・不満・不可能をプラスに変える思考習慣』(三笠書房)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。

【大好評連載】
第1回 「こいつは仕事ができない」すぐバレる書き方、意外な共通点
第2回 【一瞬でバレる】伝え方が「下手な人」に共通する残念な特徴
第3回 超多忙な上司が一発OKを出す「生々しい箇条書き」とは?