防衛省報告書の57ページには「落選」した秋田県、山形県の候補地計4カ所と、近くにある山の高さが書かれている。4カ所とも、そばの山がレーダーをさえぎるほど急角度でそびえ立つので「不適」だという。それらの1つは本山(712メートル)が邪魔になり、角度は15度だと同報告書は図示している。

 712メートルの本山の高さと、本山から候補地までの距離の2つの数字を、角度を計算してくれるネット上の計算サイトに入力してみると、4度だった。15度という防衛省報告書と大きく違う。

 松川は現場を調べることにし、車を走らせ、現地から本山を見た。確かに、そんなに高くそびえ立っているようには思えない。

 太陽の高さを、場所と時刻から割り出すカシオ計算機のウェブサイトがある。それを使ってみることにした。

「日にちとその地点の緯度・経度を入れると、あと1時間ぐらいで(太陽の高さが)15度になることが分かりました。1時間待ったところ、まだ全然山より高い」

 つまり、この1時間後の時点で太陽が15度の高さであり、山はそれよりずっと低いということだ。防衛省の資料では15度のはずの山は、実際には15度より低いことになる。

「カシオのサイトで見ると、さらに1時間近く待てば、太陽の角度は4度になる。もし本当に山の角度が4度なら、1時間後には太陽と山頂がぴったり重なったりするんじゃないかと思ったら、本当にぴったり重なりました。これは、いった(ヒットした)じゃないかと」

 防衛省の資料で「山の角度が15度、急すぎてここには地上イージスは置けない」と書いてあった山は、15度ではなく4度だったのだ。

防衛省がまさかの即日返答
「本日はお答えできません」の真意

 松川は会社にすぐ戻り、問題を報告する。

「でも、容易に信じてもらえないわけですよ。『いや待て、分かるけどお前は文系だし』とか言って……」

 上司たちとしても不安だろう。防衛省の正式文書の核心データが間違っているという重大報道になる。誤報は許されない。事実確認を厳重に行うため、松川は一計を案じた。

「じゃあ、明日測量しましょう、と。業者に頼んで測量して、あとは大学の先生に確認の取材をして」

 測量のプロにあらためて山の角度を正確に計ってもらった上、一連の取材が的外れなものかどうか、念には念を入れて大学の研究者への取材で確認したのだ。その結果、どちらも「(防衛省のデータは)間違っているということになったので、防衛省にすぐ質問状を書きました」