いよいよ防衛省にこの事実をぶつけ、見解を問うときである。

「(普段は)防衛省に秋田魁新報が質問しても、本当にたなざらしなんですよ。何日もほったらかされて『先週送ったあれ(質問)ってどうなっていますか』みたいな……。それが、このときは1時間で電話(返答)が来たんです。初めてです。『本日はお答えできません』というのです」

 それは返答といえるのかどうか。

「先方に『それだと良くないですよ、うちはもう明日(の朝刊に)、これを書くつもりなので、そのときにノーコメントというのは地元にまた印象が悪くなるから答えられることは答えた方がいいです』と言ったんですが……。『とにかくこれは今日回答しないと決まってしまったので』『本当にそのまま書きますけど本当にいいですか』『もう構いません』というような流れです」

 政府機関がノーコメントの対応をすることはある。だがデータが間違っている、というメディアの指摘に「答えられない」という対応は考えがたい。防衛省にとって、松川の指摘が的外れだったなら、「そちらの計算の仕方が間違っているのです」と説明し、記者に速やかに記事をあきらめさせようとするだろう。一方、記者の質問が図星だった場合、報道を止める手立てはまずないわけで、報道をマイルドにさせようと事情を説明したりコメントを送ったりするものだ。

「複雑な話ではないんです。疑いようもなく絶対に違うのに、違うかどうかも認めない。それもむしろニュースを構成する要素となった」

 こうして出たのが、「適地調査データずさん」という秋田魁新報の大スクープだった。防衛省はその日のうちに、データが事実と違うことを公式に認めることになる。この報道を、各メディアは後追いし国会でも問題となった。

 防衛省は翌年6月、秋田県と山口県への地上イージス配備方針を撤回。結局地上イージスの配備自体が白紙に戻った。