手っ取り早く権力掌握するには恐怖政治

 かくして、二代目にとって、自分に対して刃を向ける者がいないトップダウンの組織が出来上がる。まるで韓流の朝廷ドラマの筋書きであり、お客様のことなどそっちのけだ。

 それでもビジネスモデルが確立している場合は致命傷にはならない。ビジネスの暗部を明らかにする雑誌の記者にはありがたがられるネタの提供元となるが、組織で権力を持つためには、こういった荒療治もたまには必要なことであるとも言えなくもない(個人的にはまったく推奨しないが)。

 ビッグモーターで行われていた「環境整備点検」も、二代目にとって、権力掌握のための都合のよい良いツールであった可能性がある。

 そもそも環境整備は、この運動の提唱者によると「毎朝30分」、「一人の例外も、1日の休みもなく、全社員で、職場の掃除をする」ことだという。その目的は、環境整備……仕事をやりやすくする「環境」を「整」えて、「備」えることであり、ただの掃除(掃いたり、拭いたりして、ゴミやホコリ、汚れなどを取り去ること)とはまったく違うことだと言う。本当にその趣旨に沿って社員全員でやり続ければ、相当に実行力の高い会社になると思われる。

 しかし、こうした活動は曲解した形で運用することが可能だ。お客様へのお辞儀の角度が浅い、社員の靴が汚れていた。ネクタイが曲がっている。ガラスが曇っている。大理石が光って女性のスカートの中が見える…何とでも言いがかりをつけることができる。

 普通はこれを権力掌握のための道具として使うことなど思いもよらないが、権力掌握を急ぐ二代目は使えそうな機会やネタは何でも使う。ビッグモーターで、街路樹が邪魔といって降格の理由にしたのは、もともと、その店長が気に食わなかったので降格させようとしていたときに、たまたま街路樹が目についたから言及しただけかもしれない。

 要はただの言いがかりである。

 しかし、恐怖に支配された組織では、この手の情報はその事実だけがあっという間に全社を駆け巡り、同じ目に遭わないために、全国の店舗の店頭にあった街路樹が除草剤で枯らされてしまうようなことが実際に起こる。こうした暴君の姿を何度か見せると、全社員が常に二代目の顔色をうかがうような組織になっていくのだ。