仮説検証のために
「数字」を使う!

村井 確かに数字を元に仮説検証を立てるというのは大切ですね。安本先生の著書には、会計数字をもとに計画(PLAN)を立て、実行(DO)し、それを適時にチェック(CHECK)して、迅速にアクション(ACTION)を起こすことが重要だと書かれています。タイムリーな数字をもとに、この「PDCA」サイクルをしっかり回して素早く手を打つわけですね。

なぜ、ユニクロは増収増益を続けられるのか。<br />監査役が語る強い会社の秘密村井直志(むらい・ただし) 公認会計士。中央大学商学部会計学科卒業後、税務事務所、大手監査法人、コンサルティングファーム、上場企業役員などを経て、公認会計士村井直志事務所を開設。株式会社東朋FA取締役。日本公認会計士協会東京会にてコンピュータ委員長のほか、経営・税務・業務の各委員会委員、独立行政法人中小企業基盤整備機構にてIT推進アドバイザーなどを歴任。会計をビジネスコミュニケーションツールとして活用し、数字を駆使して、クライアントの経営改革支援を行う。各種講演、著作活動なども積極的に行っている。主な著書に、『決算書の50%は思い込みでできている』、『会計ドレッシング10episodes』、『会計直観力を鍛える』(ともに東洋経済新報社)などがある。

安本 そうです。タイムリーで正確な情報があればいちばんいい。現場から数字があがってこないことには手の打ちようがないわけです。月次よりも週次、業種によっては日次データが重要なケースもあります。

 また、ユニクロのような小売業の場合には既存店売上高、購買客数、買い上げ点数、購買単価などの前期比較増減、月坪効率、在庫回転期間などを注視します。

 自分の会社の事業がサプライチェーンのどの位置に属するかによって、売上などの基本的な数字に加えて重要視すべき指標も違ってきます。

 核となる事業ごとにキーとなる数字を月次でしっかりつかまえて、見張り続けること。その数字の変化を見て次の行動につなげます。それを繰り返し行うことで、会社も成長体質に変わっていくはずです。

村井 ユニクロの監査役という立場で、重要視されているのはどのあたりですか。

安本 ユニクロは小売業ですから、原則的に「粗利」を見ます。それには、売値のコントロールが非常に重要ですね。

 例えば、売値が1200円、原価率が50%だとすると、粗利は600円。数週間で売り切れなければ値引きします。200円値引きすると売値が1000円、原価600円で粗利は400円となり、常に販管費を30%に抑えれば営業利益10%をキープできるわけです。

村井 なるほど、値引きした場合の「粗利」も最初から意識するんですね。

安本 また、単純に売上高で判断するのではなく、「売上=客単価×客数」と「売上=商品単価×品数」の2つにブレークダウンして確認することも必要です。前年同月と比較し、差異があれば迅速に手を打ちます。

村井 私の著書、「儲けの公式」の中でも解説していますが、客数は細かくわけると「既存顧客」と「新規顧客」に因数分解できますよね。こういった数字から、どうすれば既存顧客のリピート率が上がるのか、どうやって新規顧客を取り入れるのかを工夫することで売上アップにつながります。

 こうしたことをもっと意識すれば、無益な価格競争を回避できると思いますね。

安本 その通りですね。そもそも最初の売値で売り切れればいいですが、できなければ値引をします。ユニクロでは、チラシで訴求して期間限定値引きを行ったり、売れ行きを見ながら値下げ、つまり価格改定を繰り返して、最終的には完全に売り切ることを目標にしています。そこでキーとなるのが「在庫の回転期間」です。在庫を翌期に持ち越さないのが理想ですから、毎日数字をチェックする中で、値引きのタイミングを見極めます。

村井 そういえば、ユニクロは週末になると、何かしらセールしている商品がありますね。

安本 お客様は商品をよく見ていますから、古いものをただ並べても買ってもらえません。そういった意味では、生鮮食品と同じ感覚ですね。商品の売れ行きを見て、週末に値引きセールをしよう、とか、新商品の動きが鈍いから、早めに値引きをして仕掛けてみようとか、それはもう細かく工夫しています。

村井 ユニクロはチェーン展開されていますし、ジーユーやセオリーなど商品ラインも多いので、数値管理が大変だと思います。

安本 大変です(笑)。でもそこをやるか、やらないかが会社が強くなれるかどうかなのではないでしょうか。ユニクロでは、既存店の前年同月売上高の対比などアナリストが必ず注目する数字は月次決算を終えるとすぐに発表するようにしていますね。