この「誰が、いつ、どのような買い物をしたか」という決済データから、「人」を見て価格を決定しているのです。

 それに加えて、ライドシェア(ドロップタクシー)や駐車場などのジャンルにおいては、在庫や残り台数などに合わせて自動で価格を決定したり、グルメやホテルなどほかのサービスとのパッケージで価格を提示しています。そうなるともはや「定価」という概念は存在しなくなり、「お買い得」「損」という感覚さえもなくなりはじめています

「顧客ニーズ」を起点とする最新版ダイナミック・プライシング

 膨大な決済データを背景に、「人」に紐づいたダイナミック・プライシングを展開する最先端テック企業。そこには、従来のダイナミック・プライシングと比較して、設計思想に違いが見られます。

 一般的なダイナミック・プライシングは「需給バランスの均衡」に重きが置かれています。おおもとの商品・サービスの原価が決まっており、その原価から一定の利益率を確保するために需給バランスを調整する、という発想です。

 この「原価から計算する」という手法は、換言すればプライシングの決定権を企業が掌握しているといえます。

 対して、最新のダイナミック・プライシングは「顧客ニーズから計算する」という設計思想にもとづいています。商品やサービスを提供する企業が提示する価格に購入する側が応じれば、その価格こそが「正しい価格」である、との考えです。

 そういう意味では株式市場のような自由取引のマーケットで売買が成立するシステムに近く、プライシングの決定権が企業から「ユーザー」に移っているともいえます。本稿では「ユーザー起点型ダイナミック・プライシング」と呼ぶことにします。

 このようなユーザー起点型ダイナミック・プライシングの手法には、同じサービス水準、時期、タイミングでも人によって提示される価格が異なるので、公平性の観点から否定的な声も少なくありません。

 一方で、ビジネスの観点では、従来のダイナミック・プライシングにくらべて高い収益を確保することができる利点があり、学ぶべきところは少なくありません。

 本稿では、その最新のダイナミック・プライシングの導入事例を紹介し、技術面だけでなく、そのビジネスモデルのポイントを解き明かしていきたいと思います。