アイデアが思いつかない」「企画が通らない」「頑張っても成果が出ない」と悩む方は多くいます。その解決のヒントになるのは、世の中にある「優れたアイデア」です。『発想の回路 人を動かすアイデアがラクに生まれる仕組み』の著者、クリエイティブディレクター中川諒氏が、「今の時代に、人に評価されるビジネスアイデア」を分析し、そこから学べることを紹介します。

【コンサルが分析】世界の広告賞から学ぶ「ビジネス盲点」の見つけ方Photo: Adobe Stock

「なんでいままでやってなかったのか」という当たり前を工夫する

本記事では世界の広告賞受賞作品から、とくに「ビジネスアイデアが際立ったもの」を分析し、「私たちが学ぶべきところ」を解説していきます。

フランスの自動車メーカーRenault(ルノー)が行った工夫です。

車の開発チームに、レスキュー隊をメンバーに加えたというのです。
一体彼らはなぜそのような工夫をしはじめたのでしょうか。

これまで自動車開発における安全対策は、「車が事故に巻き込まれた瞬間に、乗車している人の被害を最小限に抑えること」が至上命題でした。

みなさんも、ダミー人形を乗せた車が壁にぶつかる衝突実験の映像を見たことがあると思います。

シートベルトやエアバッグなどの安全装置、ぶつかった時の車内の衝撃を最小限に抑える車体構造の開発にどの会社も力を入れてきましたが、意外と盲点だったのが「事故を起こした後」でした。

重大な事故が発生した場合、車両からいかに早く乗客を出すことが出来るかが問われます。

それはいつ発火したり、追撃事故が発生するか分からないからです。
一刻を争う事故後の救助に力点を置いた安全対策は見過ごされていたのです。

そんななかルノーは、事故現場で実際に救助にあたる消防士たちを車の開発メンバーに加えることで、車両の改善を行ったのです。

具体的につくった改善点をいくつかご紹介します。

ひとつめが、QRescue。
各事故車両を解体するときに、どこから攻めれば取り残された車内の乗客にたどり着けるかという説明書をQRコードで車体に搭載し、レスキュー隊が現場に到着したとき効率的に作業にとりかかれるようにしました。

ふたつめが、Firemans Access。
事故を起こしたときに発熱し発火しやすい電気自動車のバッテリー。

このバッテリーが燃え上がったときに、車内から消化のために直接水を注ぎ込める穴をつくりました。

これによって他社の自動車のバッテリーは消火するのに2~6時間かかるものが、穴をつくったことで数分で消火できるようになったといいます。

そしてさらに5000人以上のレスキュー隊に、それぞれの施策を教育することで周知していったのです。

僕がアイデアを考えるときの思考フレーム「工夫の4K」に当てはめてみると、以下のようになります。ちなみに4Kとは、改善・解決・解消・回避の4つのKです。

まずうまくいっていない問題を抱えている「現状」、そしてその問題を引き起こしている「原因」、さらに「理想」の状態を整理していきます。

通常はそのあと、現状にアプローチする「改善」、原因にアプローチする「解消」、理想にアプローチする「解決」、そして全く違うアプローチを考える「回避」をそれぞれ考えていきますが、今回は実際に行われた改善策なので「改善」だけ埋めていきます。

現状:自動車事故があると乗客は一刻を争う過酷な救助の状況におかれる
⇐改善:これってもっと、事故後の救助を見据えた自動車開発はできないだろうか?

理想:自動車事故によるリスクを限りなく減らす

原因:車の安全対策は、事故後ではなく「事故の瞬間」にフォーカスされている

【コンサルが分析】世界の広告賞から学ぶ「ビジネス盲点」の見つけ方4K思考マップ

決して派手なデザインや開発ではないですが、人の命に関わるデザインの工夫。

このような素晴らしい工夫に出会うと、素晴らしいがゆえに「むしろなんで今までやってなかったんだろう?」という気持ちにすらなってきます。

わたしたちが普段日常で目にしている「当たり前」も、すべて誰かが過去に行った工夫なのです。

(本記事は『発想の回路 人を動かすアイデアがラクに生まれる仕組み』を参考に、著者が分析した書き下ろしです)