歴史小説の主人公は、過去の歴史を案内してくれる水先案内人のようなもの。面白い・好きな案内人を見つけられれば、歴史の世界にどっぷりつかり、そこから人生に必要なさまざまなものを吸収できる。水先案内人が魅力的かどうかは、歴史小説家の腕次第。つまり、自分にあった作家の作品を読むことが、歴史から教養を身につける最良の手段といえる。
直木賞作家・今村翔吾初のビジネス書『教養としての歴史小説』
(ダイヤモンド社)では、教養という視点から歴史小説について語っている。小学5年生で歴史小説と出会い、ひたすら歴史小説を読み込む青春時代を送ってきた著者は、20代までダンス・インストラクターとして活動。30歳のときに一念発起して、埋蔵文化財の発掘調査員をしながら歴史小説家を目指したという異色の作家が、歴史小説マニアの視点から、歴史小説という文芸ジャンルについて掘り下げるだけでなく、小説から得られる教養の中身おすすめの作品まで、さまざまな角度から縦横無尽に語り尽くす。
※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。

【直木賞作家が教える】歴史に学ぶ小泉純一郎元首相の名演説Photo: Adobe Stock

小泉純一郎元首相
の所信表明演説

【前回】からの続き たとえば、小泉純一郎元首相は、内閣発足後の最初の所信表明演説で「米百俵の故事」を引用しています。

『米百俵』は作家の山本有三が戯曲として書き下ろした作品です。

明治の初期、厳しい財政難にあえいでいた越後・長岡藩に、支藩の三根山藩から米百俵が届けられました。

今よりも未来に
投資する大英断

食うや食わずの藩士は、これで飢えをしのげると喜びました。

しかし、長岡藩の大参事である小林虎三郎は、米百俵を学校設立の資金に当てました。

その結果、この学校から優秀な人材が輩出され、日本の近代化に大きく貢献することとなったのです。

歴史を知らない
若い世代

小泉元首相は、このエピソードを引用した上で、今の痛みに耐えて明日を良くするために改革を進めようと訴えたのです。

ところが、今はどうでしょう。仮に今、「縄文時代」「弥生時代」から始まり「令和」に至るまでのプレートを作成し、街ゆく若者に「これを古い順番に並べ替えてください」と依頼したならば、正解者は100人中数人ではないでしょうか。

私自身、講演で学校を訪問する機会が多いのですが、想像以上に歴史を知らない子どもが増えているのを実感します。【次回に続く】

※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。