歴史小説の主人公は、過去の歴史を案内してくれる水先案内人のようなもの。面白い・好きな案内人を見つけられれば、歴史の世界にどっぷりつかり、そこから人生に必要なさまざまなものを吸収できる。水先案内人が魅力的かどうかは、歴史小説家の腕次第。つまり、自分にあった作家の作品を読むことが、歴史から教養を身につける最良の手段といえる。
直木賞作家・今村翔吾初のビジネス書『教養としての歴史小説』
(ダイヤモンド社)では、教養という視点から歴史小説について語っている。小学5年生で歴史小説と出会い、ひたすら歴史小説を読み込む青春時代を送ってきた著者は、20代までダンス・インストラクターとして活動。30歳のときに一念発起して、埋蔵文化財の発掘調査員をしながら歴史小説家を目指したという異色の作家が、歴史小説マニアの視点から、歴史小説という文芸ジャンルについて掘り下げるだけでなく、小説から得られる教養の中身おすすめの作品まで、さまざまな角度から縦横無尽に語り尽くす。
※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。

【直木賞作家が教える】社交ツールとしての歴史小説活用法Photo: Adobe Stock

居酒屋で歴史を語った時代

【前回】からの続き ひと昔前まで、日本では歴史や歴史小説について話題にする機会が多かったように感じます。

「関ヶ原の戦いって、どうやっていたら西軍が勝てたと思う?」「信長って実際のところ評価できるの?」

昭和の時代は、こんな会話が居酒屋レベルでも交わされていました。

歴史小説は社交ツール

特に、高度成長期には歴史小説を読むのが社会人の嗜みとみなされる風潮もあったそうです。

「君は、司馬遼太郎の新作を読んだか?」
「はい、読みました」
「では、感想を聞かせてくれないか?」

このように、歴史小説がゴルフ並みに社交のツールとして機能していたのです。

歴史小説は政治家の嗜み

かつて政治家の愛読書といえば、『坂の上の雲』『竜馬がゆく』(ともに司馬遼太郎 著)などが定番中の定番であり、理想の政治家に「上杉鷹山」を挙げる発言もよく聞かれました。

上杉鷹山はアメリカの元大統領であるJ・F・ケネディやビル・クリントンが、「最も尊敬する日本人政治家」と語っていたことでも知られています。

政治家の多くが歴史の教養を共有し、史実を引き合いに政策を訴えることを自然に行っていました。【次回に続く】

※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。