IT活用で後れを取る日本にとって、「行政サービスのデジタル化」が重要なのは言うまでもない。しかし、その要といえるマイナンバーカードを巡っては、連日深刻なトラブルが報道されている。開発体制やシステムの不備、政府の対応のまずさを指摘する声が高まるなか、データサイエンティスト/経営コンサルタントである筆者は、それ以上に根深い問題があると見ている。その中身とは?(マッキンゼー・アンド・カンパニー パートナー 工藤卓哉)
国民の信頼を裏切り続ける
マイナンバーカード
総務省の発表によると、マイナンバーカードの累計有効申請受付数は9797万5626件、累計交付枚数は9538万6019件。2023年8月31日時点で、人口に対する保有枚数率は約71.7%に達した(参考資料)。だが、普及率の増加と歩調を合わせるように、不備やトラブル報告が相次いでいる。
その代表例が、マイナンバーカードと一体化した保険証に他人の情報が記録されたことだ。この問題によって、コンビニで証明書が受け取れるサービスに不具合が生じ、住民票の写しや戸籍証明書が他人に交付され大問題となった。
その後も、マイナンバーカード取得者向けのサイトである「マイナポータル」上で他人の年金記録を閲覧できる状態になったり、公金受取口座やマイナポイントが他人に誤付与されたりと、続々と問題が明るみに出ている。
政府はこうした状況を重く受け止め、一連のトラブルに関するシステムやデータを総点検しているという。また、入力ミスやオペレーション上のミスを防ぐため、業務プロセスのデジタル化を推し進めるとしているが、このままトラブルが収束するかどうかは政府自身ですら分からないだろう。
マイナポイントの申請申し込みの集中が、一連のトラブルの遠因になっているのは容易に予想がつく。だが、締め切り前に駆け込み申請が増えるのは事前に分かっていたはずだ。システム上の不備についても、仕様検討やテストの段階で見つけられたものも少なからずあっただろう。
マイナンバーカードの普及を急ぐあまり、事前の準備を怠ったと言われても仕方ないほどのトラブルが続いているのは、誠に残念だというよりほかにない。
振り返ると、政府はマイナンバー制度に対する懸念の声を払拭するため、制度が始まる前からメリットと安全性を強く訴えてきた。だが一連のトラブルによって、国民の懸念を現実のものにしてしまった責任は計り知れない。国民から失った信頼を取り戻すのが容易ではないのは、当事者である政府が一番よく理解しているはずだ。
とはいえ、昨今話題になっている医療保険証とのひも付けエラーについては、マイナンバーカードのシステム自体が問題だというよりは、登録作業ミスという「人災」が原因だといえる。そのため、全てのトラブルをマイナンバーカードに起因するものとして感情的に片付けるべきではないことも補足したい。
その上であえて言わせてもらえば、マイナンバー制度の問題点は、すでに明るみに出ているセキュリティーの面だけではない。