「自然体」でいることの大切さ
──ストレスをためすぎず、日頃からスムーズに眠るために必要なものはなんでしょうか?
川野:たとえば、日頃から自然体でいられる人は、ストレスが少なく、マインドフルな生活を送ることができるため、睡眠に関してもスッと寝つけてスッと起きられている可能性が高いと思います。
一方、眠れない、と悩んでいる人は「完璧な睡眠」を求める気持ちが強いため、実際にはそこまで必要としているわけではないにもかかわらず、必要以上に寝過ぎてしまうことも。
人によって理想の睡眠時間は本当にさまざまです。
たしかに一般的には7~8時間がいいと言われていますが、9時間寝ないと気がすまない人もいますよね。
自分の体の声を聴くという意味では、『無意識さんの力でぐっすり眠れる本』の中にある心理ワークや、マインドフルネスを実践してみるといいかもしれません。
こうした健康習慣を身に着けることで、「今の睡眠でちょうどいいんだ」と感じることができる心のゆとりが生まれると思います。
──「自然体」でいることが大切なんですね。
川野:そうですね。
ただ、一つ注意していただきたいのが、「自然体になるようにがんばろう!」と意識しすぎないことです。
何が自分の心と体にフィットするのかわかってそれを取り入れていけば、自然体でいようと努力しなくても、おのずから自然体でいられる時間も多くなっていきます。
安心して生活ができるようになると、自然と眠れるようになります。
「眠らなきゃ」と意識しすぎるのは逆効果
──今回のお話は日頃から心と体に向き合うきっかけになりそうですね。
川野:そうなると嬉しいです。
わたしたち人間の心理には、「思考抑制の逆説的効果」という現象が起こることが知られています。
たとえば今この瞬間、「シロクマのことを考えないでください」と言われると、どうしてもシロクマを想像してしまうのではないでしょうか。
これは私たちが考えたくないものほど意識することによって危険を回避してきた、防衛本能の名残と考えられます。
「眠らなければいけない」と強く思えば思うほど、眠りにつくことから遠ざかってしまうという現象も、その一種と言えるでしょう。
こうした心のメカニズムをよく理解しておけば、睡眠と今よりも仲良く付き合っていけるのではないかと思います。
「眠れないからといって、死ぬわけではない」
──最後に、眠れない読者の方にメッセージをお願いします!
川野:人間の脳は基本的に、睡眠不足の限界を迎えた時点で自動的に眠れるようにプログラミングされています。
私も不眠に悩んでいる患者さんによく、「眠れないということだけで死ぬことはないので、まずその点だけは安心してくださいね」とお伝えしています。
『無意識さんの力でぐっすり眠れる本』を読まれるときにも、完璧に眠ることを目指して読むのではなくて、「時には眠れない日もあるよね」という気構えで眺めていただけたらと思います。
「寝る前はゆっくり過ごして、1日の疲れをリセットしよう。それをサポートしてくれるのがこの本だ」
そんな意識で読んでいただきたいですね。
「この本を読んでなんとしても眠るぞ!」という気合いは手放し、肩の力を抜いて、本書を手に取っていただくことをおすすめします。
精神科・心療内科医/臨済宗建長寺派林香寺住職
精神保健指定医・日本精神神経学会認定精神科専門医・医師会認定産業医。
1980年横浜市生まれ。2005年慶應義塾大学医学部医学科卒業。臨床研修修了後、慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。2011年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修行。2014年末より横浜にある臨済宗建長寺派林香寺住職となる。現在寺務の傍ら都内及び横浜市内のクリニック等で精神科診療にあたっている。
主な著書に『会社では教えてもらえない 集中力がある人のストレス管理のキホン』(すばる舎)、『半分、減らす。「1/2の心がけ」で、人生はもっと良くなる』(三笠書房)、『精神科医がすすめる 疲れにくい生き方』(クロスメディア・パブリッシング)、『「精神科医の禅僧」が教える 心と身体の正しい休め方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。