以上のような理由で、働く人、とくに組織の中では「キャリアの話を後回しにはできない」という空気が醸成されていき、近年、キャリア全般をテーマにした1on1が注目を集めるようになりました。

 でも、考えてみれば、ある意味で当然かもしれません。

 たとえば、女性活躍の文脈では、とくにキャリア1on1は重要です。最近、経営層におけるD&I(ダイバーシティ&インクルージョン/多様な人材を受け入れ、個々の特性を活かす)という流れも加速しており、組織ではよく、女性に対して「管理職になってほしい」と言います。ですが、一人ひとりの女性が背負っているものがどんなものなのか、どのようなキャリアを歩みたいのか、管理職へのハードルが何なのかを対話しないまま女性の起用に躍起になっても、女性活躍は進むはずがありません。

 たとえば、私の会社では、女性リーダーのロールモデル的存在を「社外メンター」として育成しています。そして、「社外メンター」を企業で働く女性たちにマッチングし、キャリア1on1を行っています。女性の「身近に等身大のロールモデルがいない」という課題を解決することで、女性をはじめ多様な人材が活躍できる社会を創る事業を行っています。最近では、当社の社外メンターに男性が増えてきたり、企業の管理職(主に男性)にも、さまざまな研修に加えて社外メンターによるキャリア1on1を行うことが増えてきました。

 さらに、社内メンターを育成し、社内の人同士でキャリア1on1ができる仕組みを構築する事業も行っています。そうした事業の中で、実際に当社が行った効果測定によると、「キャリアの話を安心してできる場所がある」「キャリアについて相談できる存在がいる」ことで、「リーダーになるモチベーションが高まった」「キャリアへの意識が高まった」「会社へのエンゲージメントが高まった」といった結果が出ています。

 会社は仕事をする場ですが、仕事は個人の価値観や私生活、中長期のキャリアプランと密接につながっています。だからこそ、上司や先輩に「私はなぜ、この組織で働いているのか」「この仕事のやりがいは何か」といった本質的な話を聞いてもらえることが大事であり、キャリアの話を安心して聞いてもらい、必要に応じて助言をもらうことが重要です。そうした場を作ることが、今、組織で求められているのです。

 これは、女性に限りません。ただ、組織の上長は男性が多く、働く女性特有のキャリアの課題への理解が追いついていなかったり、女性のほうがメンターやロールモデルが身近にいないというデータがあるのも事実です。

 ですから、女性をはじめ、多様な人材に組織の中で大いに活躍してもらうためにも、キャリアについて話せる場を作るのが年長者の、そして組織の役割かもしれません。