「上司が部下を理解するのに3年かかるが、 部下は上司を3日で見抜く」と言われるように、“できるリーダー”を演じてもすぐに見破られてしまう。では、自信がない者はリーダー失格なのか? そんな不安を吹き飛ばしてくれる本が『優れたリーダーはみな小心者である。』(ダイヤモンド社)だ。著者はブリヂストンで世界約14万人の多様な部下を率いた元CEOの荒川詔四氏。本書で荒川氏は、リーダーの「繊細さ」「小心さ」を武器にできる内向的な人が優れたリーダーに育つと明言。その実体験にもとづく説得力あるメッセージが多くの共感を呼びロングセラーとなっている。そこで、「面白いことをするから、リーダーシップは育つ」という言葉の真意について、本書の内容をもとにお届けする。(構成:樺山美夏)

優れたリーダーはみな小心者である。Photo: Adobe Stock

仕事は楽しいですか?

「仕事は面白いですか?」
「仕事を楽しんでいますか?」

 こう聞かれたら、あなたはどう答えるだろうか?

 収入だけを目的に「仕事=苦行」のような価値観で働いてはいないだろうか?

 筆者が今までインタビューしてきた成功者に、仕事をイヤイヤながらやっている人は1人もいなかった。

 仕事をしていると、大変なことがたくさん起こる。しかし、どんな状況でも前向きに仕事に取り組むことが、成果を出すためには大事なことだろう。

 仕事のつらい面・ネガティブな面に目が行きがちな人は、まず、その意識を変えてみてはどうだろうか?

 本書の著者の荒川氏も、「苦労せずして、優れたリーダーシップを備えることはない」と断言するが、それが単なる「苦行」であってはいけないと念を押す。

「苦行=つらさに耐えて仕事をする」というスタンスでは、むしろリーダーシップを殺してしまうことになってしまうでしょう。なぜなら、そこには、リーダーシップの原点である「主体性」がかけらもないからです。(P.61)

 誰かに指図された「やらされ仕事」をしていたり、「すでにある仕組み」に乗っかるだけではつまらない。

 自分から「面白い」と思えることをするときこそ「主体性」が発揮されるのだ。

仕事は苦行ではない

 しかし、単に面白がれる遊びや趣味と違い、仕事には失敗のリスクがともなう。これが、失敗を極端に恐れる日本人の主体性を奪っている大きな原因だろう。

もちろん、「面白い」ことを実現する過程では、カベにぶつかり、痛い思いもするでしょう。ときには挫折することもあるはずです。しかし、この苦しみは、決して苦行ではありません。つらさに耐えて仕事をしているのではなく、面白いことを実現するために仕事をしているからです。そして、この逆境を乗り越えて、モノゴトを実現する過程でこそ、真のリーダーシップは鍛えられるのです。(P.62)

 失敗を恐れている限り、主体的に仕事を楽しめないだけでなく、リーダーとしてもチームの士気を上げることは難しくなると、荒川氏は続ける。

 自分の上司が、眉間にシワを寄せて苦行のような仕事に耐えているのに、メンバーだけ仕事を面白がれるはずがない。

 逆に、自ら見つけ出した課題にチャレンジして仕事を面白がるリーダーなら、部下も見よう見まねで後に続くだろう。

この世の中には、「完成された仕事」というものはありません。(中略)
必ず、改善できること、新しくできることはあります。それを見つけて、上司に提言する。それが魅力的な提言であれば、必ず、周囲の人が「俺も」「私も」と力を貸してくれるようになります。
みんな「面白い」ことがしたいのです。(P.65-66)

 ここで「上司に提言する」という言葉に引っかかった人がいるかもしれない。

 しかし、新しいアイデアを実現するためには、上司を説得する必要がある。

失敗しても許されるのが会社

「そのハードルが一番高いよ」と怖気づく人には、「会社というものは、実に“よくできた場所”です」という著者の言葉を覚えておいてほしい。

 筆者のようなフリーランスは失敗が許されない。失敗しても、それをカバーしてくれる会社もなければ上司もいない。

 しかし会社員は、上司にハンコさえ押してもらえれば「無罪確定」。この言葉は、失敗に対する恐怖心を吹き飛ばしてくれるはずだ。

もしもチャレンジに失敗しても、それはハンコを押した上司の責任。適時的確に上司に報告・連絡・相談しながら、精いっぱい努力を尽くしたのならば、提案した本人の責任が問われることはないのです。(P.66)

 とはいえ、若いうちは大きなチャレンジはさせてもらえない。だからこそ、リスクの小さい若いうちにどんどんチャレンジすれば、優れたリーダーになる訓練を積み重ねられる。

アイデアは目の前にある

 仕事をより面白くする小さなアイデアは、あなたの目の前にあるかもしれない。

 荒川氏も、「書式の変更といったミニマムな改善提案」や「業務プロセスの改善提案」など、自ら手を挙げてどんどん取り組んでいったと語る。

 最初は、直属の上司さえ納得すればすぐに実施可能なものから提案し、実際に改善できれば周囲にも喜ばれるためモチベーションが上がる。

 その勢いで、改善すべきポイントに気づくたびに「言い出しっぺ」になれば最強だ。

何度、「言いだしっぺ」になったか?
これが、真のリーダーになれるかどうかを決めると私は考えています。(P.70)

 誰かが提案したことに追随すれば、何も考えなくていいからラクだ。リスクもとらないから失敗もしない。しかし、「それはリーダーの仕事とは言い難い」と著者は言う。

 リーダーがリスクをとらなければ、組織が停滞するのは時間の問題だ。現状維持にしがみつくようになったら、業績悪化は避けられないだろう。

チャレンジした数だけ成功率は高まる

 もちろん、「言い出しっぺ」になったからには、最後までやり切らなければいけない。だがそれこそが「成長」につながり、たとえ失敗しても、「あの人は言ったことはやり切るはずだ」と周りの信頼も得られる。

 その好循環を生み出すことができれば、チャレンジした数だけ成功する確率も高まっていく。するとある変化が起こるのだという。

「まぁ、あいつが言うんなら、なんかやってくれるだろう」という反応が増えてくる。かつては、「あいつはバカか?」という反応だったのが、「あいつならしょうがない」という反応に変わってくるのです。
この「また、あいつか」「しょうがない」というレッテルを貼られたらシメタもの。提案当初から賛成に回る人が増えてくるのです。(P.77)

 それでも臆病な人は、「言い出しっぺ」になって目立ちたくない、やり切って失敗したら何を言われるのかわからない、などと不安を覚えるかもしれない。

 しかし、失敗を恐れて「言いだしっぺ」になるのを避けるほうが、長い人生で大きなリスクとなると著者は述べている。

 年齢を重ねるほど、リスクをとらず無難な選択肢を選ぶ人は居場所がなくなっていくだろう。

 そちらのほうがよっぽど不安だと思える小心者ほど、「言い出しっぺ」になったほうが優れたリーダーになれるのだと、本書は教えてくれる。