ふるさと納税をめぐる「二つの問題」
総務省の理不尽さが浮き彫りに
さて、この新しい50%ルールに沿って10月以降、ふるさと納税は若干値上げされることになります。典型的な商品ではこれまで1万円の寄付で手に入ったものが1万2000円ぐらいの寄付金に値上げされる自治体が多いようです。
その意味で、駆け込みで何かを購入されたい方は、確かに9月30日までに行動を起こしたほうがいいかもしれません。
このようにふるさと納税は非常にうまくいっている政策ではあるのですが、二つの問題が起きています。そのひとつが泉佐野市問題です。
2017年、2018年のふるさと納税日本一の自治体が大阪府の泉佐野市です。2018年は497億円の寄付金を集めました。これは全国の約1割を占める金額です。泉佐野市のふるさと納税は返礼品が豪華だったことで全国の注目を集めたのですが、総務省はそれに対して再三、指導を入れようとしてきました。
泉佐野市はそれに応じないうえに、2019年には通常の返礼品に加えて「Amazonギフト券最大40%」をプレゼントするキャンペーンを行いました。
そのため2019年のふるさと納税制度の変更にあたり、総務省は泉佐野市(を含めた4自治体)をふるさと納税制度から除外しました。このことは裁判で争われ、2020年に最高裁は泉佐野市をふるさと納税制度から除外したことは違法だとして、除外決定を取り消し、泉佐野市はふるさと納税に復帰します。
復帰したとはいえ、以前のように宝石やギフト券を返礼品にすることがルール上できなくなったので、泉佐野市が力を入れたのが熟成肉と精米です。泉佐野市では民間の業者が4億円の設備投資をして熟成肉工場を建てました。そこで熟成させた肉を返礼品として売り込んでいたのです。
復帰後の泉佐野市のふるさと納税は相変わらず人気で、2022年にも、全国5位の受け入れ額(137億円)を集めました。そこで、この泉佐野市を狙い撃ちするように「熟成肉と精米は返礼品として認めない」というルールを総務省が打ち出したのです。
市長の態度が悪いから国がおきゅうをすえてやろうという意図はわかるのですが、この話、ちょっと理不尽な結果を生んでいます。
泉佐野市は、今回は総務省の指導を受けることにしました。熟成肉と精米を取り下げても137億円の寄付金は105億円に減るだけです。無益なバトルは避けたいというのが市役所の本音でしょう。
しかし、政治家たちはこの結果の理不尽さを真剣に受け止めるべきです。要は4億円の資金調達をして産業を興そうとした民間企業が、総務省の一ひねりで廃業の危機に瀕したことになるのです。地方創生をうたう政府が投資をした人を踏みつぶすという前例ができれば、リスクをとって事業を興そうとする人はいなくなってしまいます。