民間保険の利用は最小限に抑え
貯蓄を増やすことで乗り切ろう

 このように、会社員や公務員などで、勤務先の健康保険に加入している人が、病気やケガをして仕事を休んだ場合は、月収の3分の2程度の傷病手当金が、最大で1年6カ月分支給される。給与の全額には届かないが、仕事を休んでも、収入がゼロになるわけではない。

 こうした公的な保障があることを知らずに、民間の保険に入っている人もいるのではないだろうか。万一のときに、民間保険からも給付金がもらえれば、それだけ経済的リスクは軽減できる。だが、民間保険は、病気やケガをすれば、必ず給付を受けられるわけではない。あらかじめ約款で定められた支払い要件を満たさなければ、保険金や給付金を受け取ることはできないからだ。

 特に、民間の医療保険の給付金支払いは、入院や手術をすることを前提としている商品が多く、原則的に自宅療養は対象外だ。国の方針もあり、今は入院期間がどんどん短くなっているので、長期療養中の所得をカバーするのには不向きだ。

 病気やケガによる長期療養の所得補償が目的なら、就業不能保険の方が使い勝手がいい。ただし、こちらも「就業不能状態になってから60日間は支払い対象外」などの要件があるものが多く、カバーできる経済的リスクには限界がある。

 病気やケガの長期療養に備えるためには、まずは自分がもらえる健康保険の傷病手当金を調べ、そのお金で療養中の生活が成り立つかどうかをシミュレーションしてみよう。生活費や教育費、住宅ローンなど、毎月、どうしても出ていく支出と傷病手当金を比較してみて、手持ちの貯蓄で乗り切れそうなら、あえて民間の保険に加入する必要はない。

 傷病手当金だけでは賄えそうもない場合は、民間の保険の利用が視野に入ってくる。だが、いつまでもだらだらと利用するのではなく、「子どもの教育費がかかる間だけ」「病気やケガをしたときに使える貯蓄がたまるまで」など、期間を区切って加入するのが、民間保険の賢い利用法だ。

 ちなみに、自営業やフリーランスの人などが加入する国民健康保険には、傷病手当金がないので、会社員や公務員などに比べると、民間保険の必要性は高くなる。だが、保険は万一に備えるもので、支払い事由に相当する保険事故が起きなければ、ただ保険料を消費するだけになってしまう。民間保険の利用は最小限に抑え、日頃から貯蓄を増やしていくことが、万一の長期療養に備える一番強い力になる。