航空機とのシェア争いで
重要な役割を果たした品川駅
この頃、東海道新幹線にはもうひとつの難問が立ちふさがっていた。羽田空港アクセスの改善と、航空業界の規制緩和で価格競争が進み、航空機のシェアが急激に拡大したことである。旅客地域流動調査の首都圏対関西圏の新幹線対航空機シェアは、1990年に83%だったが、2000年は71%まで低下した。
しかし、航空機への対抗を意識した「のぞみ」中心のダイヤに転換して以降、利用者数は急速に増加し、2007年の輸送量は2000年比で2割弱増加。リーマンショックで一時減少するも、コロナ前最終年の2018年は2009年比で3割以上増加した。
対航空機戦略で重要な役割を果たしたのが品川駅だ。品川での乗車が可能になったことで、東京都心南西部、渋谷や目黒からの新幹線乗り換えが20~30分短縮された。
JR東海によれば東京駅と品川駅の利用者比率は、2003年に6対1だったのが、現在は3対1にまで増加しているという。東京駅から品川駅に転移した以上に品川駅利用者は増加しており、それだけでも品川駅への投資は元を取ったと断言する。その他、東京~新横浜間に列車収容、折返し可能な駅ができたことで、異常時の対応能力が向上した効果も大きいだろう。
筆者も先日、米原から「ひかり」に乗車したところ、小田原付近の大雨で一時、運転が見合わせになった。30分程度で動き出したが、多数の列車が詰まって、新横浜以降は止まって動いての繰り返しだった。なんとか品川まで辿りついたので、予定を変更して品川で乗り換えたが、駅がなければ東京駅まで閉じ込められるところだった。
2003年以降、本格化した東海道新幹線の輸送力増強の集大成となった「のぞみ」12本ダイヤは、コロナ禍の直撃を経て、一見すると「過剰」な輸送力を抱えているように見えるが、JR東海は悲観していない。輸送力に余裕ができたからこそ、多様なサービスの展開が可能になると語る。速達型のサービスは建設の進むリニア中央新幹線が担い、その他の多様なニーズを東海道新幹線で分担する形になるはずだ。
2022年10月にJR東海が発表した将来構想に挙げられた「グリーン車の上級クラス車両」や「ビジネス環境を一層高めた座席」の他、かつて設定された個室や、もしかすると食堂車のような付加価値を目指すのもあり得るかもしれない。
旺盛なビジネス需要に対応するため、徹底的に均一化・最大化・合理化した東海道新幹線は、ひとつの「完成形」を迎えたが、それを突き詰めた先にサービス多様化の可能性が生まれたというのは面白い。東海道新幹線が本当に完成するのは、まだまだ先になりそうだ。