世界に多大な影響を与え、長年に渡って今なお読み継がれている古典的名著。そこには、現代の悩みや疑問にも通ずる、普遍的な答えが記されている。しかし、そのなかには非常に難解で、読破する前に挫折してしまうようなものも多い。そんな読者におすすめなのが『読破できない難解な本がわかる本』。難解な名著のエッセンスをわかりやすく解説されていると好評のロングセラーだ。本記事では、ユングの『元型論』を解説する。

読破できない難解な本がわかる本Photo: Adobe Stock

すべての人の心に共通した無意識的な鋳型のようなものがある。なぜかいつの時代もどこの国にも「蛇」や「ドラゴン」の神話が残っているのは不思議なこと。さらに、だんだんと自分の深層意識にもそれがあることがわかってくる……。

すべての人の無意識に共通する無意識とは?

 ユングは、フロイトの影響を受けたスイスの精神病学者・心理学者で、独自の深層心理学を確立しました。

 ユングはフロイトと深い交流関係にありましたが、後に考え方の違いによりフロイトから離れて活動しました。

 フロイトは個人的無意識について考察しましたが、ユングは心のさらなる深層に、「集合的無意識」の層が存在すると考えました。

「個人的無意識」の下の「集合的無意識」は個人的な経験から生じたのではなく、遺伝的に受け継いできた生得的な心の領域です。

「集合的無意識」は、「元型」を通じて現れます。ユングは、無意識には、個人的経験ばかりでなく、先祖の経験も含まれていると考えました。なぜなら、違った国や文化で育った人間が、同じように蛇の幻覚を見る場合があるからです。

 ユングによると、神話は客観的な出来事ではなく、内的な人格からの啓示の象徴です。人間にはすべて、時代や民族や個人的経験を超えた人類共通の「集合的無意識」があり、これが精神活動の基盤をなしているとされます。

 ユングは、様々な民族や部族の文化の中に共通した要素が繰り返し登場することを指摘しています。

 ユングは、「元型」として、「アニマ」「母親」「影(シャドー)」「子供」「老賢人」「おとぎ話の妖精」などを示しています。

「アニマ」は、女性の姿をとって表れたもので、神話の世界ではセイレーン、人魚、森の精などとして表現されています。

自己を知ることで自己実現ができる

 ユングの心理学では、元型のイメージの意味を解釈できますから、心の治療に新しい道筋が開け、「個性化」の過程へ踏み出すことができます。

「個性化」とは個人が意識と無意識を統合することです。

 意識と無意識を総合的にとらえることができれば、自分本来の姿にもどることができるわけですから、心が分裂したりコンプレックス(複雑な感情群)に影響を受けて悩むことが軽減されるかもしれません。自我(ego)を包み込んでいる全体が自己(self)です。

 自己は集合的無意識にまで広がっていますので、これを探求することで人生が豊かになっていくとされます。

 ユングは、第一次大戦中に、スイスに逃れてきた外国人兵士らを収容する施設に、軍医として勤務しました。ユングはこのとき、なぜかノートに円形を描いていました。その円は心理状態によって変化することがわかりました。

 ユングは、この円形は自分の中の様々な要素をまとめて一つに統合する全体性を象徴するものだと考えました。

 これは「自己(セルフ)」の「元型」であるとされます。

 この円形の絵について、ユングは東洋ではマンダラと呼ばれる瞑想用具と関係があることに気がつきました。

 さらに彼は患者の治療を通じてマンダラには錯乱した精神状態を治す不思議な力があることを発見しました。これは、マンダラによって、無意識が解放され、抑圧されていた心のエネルギーが解放されていくからです。

 ユングの書には、マンダラの写真が数多く紹介されています。『心理学と錬金術』の第3章の「マンダラ象徴」では、「シュリー・ヤントラ」を代表として様々なマンダラの図版が紹介されています。

 世界中に様々なマンダラが存在している不思議さを感じさせます。

 夢や様々なヴィジョンなどが、個人の経験や、文化・伝統に基づかないことがあり、それが人類に普遍的な無意識に存在する「元型」によるものだというユングの説。これを知った人は、「自己(セルフ)」をもっと探求したくなることでしょう。