深刻化する人手不足問題。企業による人材の獲得競争が激しさを増している。しかし、本当に大切なのは「採用した人材の育成」だろう。そこで参考になるのが『メンタリング・マネジメント』(福島正伸著)だ。「メンタリング」とは、他者を本気にさせ、どんな困難にも挑戦する勇気を与える手法のことで、本書にはメンタリングによる人材育成の手法が書かれている。メインメッセージは「他人を変えたければ、自分を変えれば良い」自分自身が手本となり、部下や新人を支援することが最も大切なことなのだ。本連載では、本書から抜粋してその要旨をお伝えしていく。

メンタリング・マネジメントPhoto: Adobe Stock

プラス受信──物事を客観的、好意的、機会的に受け止める

 ある大手企業の技術開発部長は、次のようなことを言っていました。

「実験がうまくいかないほど、うれしくなる。これだけうまくいかないのならば、世界中の技術者も簡単にはうまくいかないはずだ。ということは、もし開発できれば誰も真似できない技術になるに違いない。一つの失敗から一つのノウハウを見つけ出せば、失敗するほどノウハウがたまって、きっといつか開発は成功する」

 すべての失敗は糧になります。

 なぜ失敗したのかを分析して対処することで、同じような失敗をしなくなり、成功する可能性がどんどん高まっていくことでしょう。

 それに、失敗するほどノウハウがたまるのですから、途中でやめることができなくなるはずです。次のチャレンジは、いつも過去最高の成功確率で私たちを待っているのですから。

 ピンチとチャンスは同じ状況です。ピンチはピンチと受け止めただけですし、チャンスはチャンスと受け止めただけです。

 また、無駄なことと、役に立つことも同じです。一方は無駄にしただけで、かたや役に立つようにしただけです。

 さらに、困ったことと、うれしいことも同じです。困ったことと受け止めただけで、かたやうれしいことと受け止めただけです。

 喫茶店で、コーヒーを自分の服にこぼしてしまった時、困ったことが起きたと受け止めれば困ったことになります。

 しかし、このことをきっかけにして、軽く拭くだけで汚れがすべて取れるクリーナーを開発しようと思えば、この出来事は未来を変えるすばらしいきっかけになるかもしれません。

 どんな出来事であっても、受け止め方によって、その出来事に感謝することもできるようになるのです。

「すべての出来事は、前向きに考えればチャンスとなり、後ろ向きに考えればピンチとなる。問題が起きたことが問題ではなく、どう考えたかが本当の問題である」

 このように物事を前向きに受け止めることを、プラス受信と言います。

 さらに、プラス受信には、「客観的」「好意的」「機会的」という三つの原則があります。

①客観的──その場の感情に流されず、客観的、冷静に考える

 私たちはどうしても、その場の感情に流されてしまうことがあります。流されることが悪いことなのではありません。そうではなく、流されないような努力をしているかどうかが問題なのです。

 つまり、いつも感情に流されて仕事をしていたのでは、良い仕事ができなくなります。

 特に、お客様と接する機会の多い仕事に携わる場合には、自分の感情のコントロールができるかどうかは、売上に直結してしまいます。

 さらに、感情的になってしまうと、何事も正しい判断ができなくなってしまいます。なかなか難しいことかもしれませんが、正しい判断をするためには、起きた出来事に感情が左右されないようにすることが大切です。

 自分が感情的になっている時は、自分でもそのことがわかることがあると思います。その時、自分を少し客観的、冷静に観察してみるようにしてみましょう。まるで他人事のように見ることができれば、たいていはつまらないことで感情的になっているだけだとわかるのではないでしょうか。

 こうすることで、自分の感情をコントロールし、客観的、冷静に考えることができるようになるはずです。

 もちろん、どんな時でも客観的、冷静に考えることができる人はいないと思います。しかし、100%はできなくとも1%はできるはずです。

 そして、その1%の違いが、その後のあらゆる違いになっていくのです。

 人間が他の動物と違うところは、100%ではないにせよ、自分の感情を自分の意志でコントロールすることができるということです。

②好意的──相手の発言、行動などについて好意的に受け止める

 ある人に言われると腹が立つことが、友人に言われると自分が反省するきっかけになる、ということがあります。

 私たちは、親友同士、恋人同士の会話では、自然とすべての発言を、お互いに好意的に受け止める傾向があるのです。いつも仲が良い相手との会話は、好意に満ちあふれています。

 それは、何を言われたかが問題なのではなく、誰から言われたかが問題だからです。それはとりもなおさず、相手の発言を自分がどのように受け止めたか、という問題に他なりません。

 相手の発言や行動を、好意的に受け止めようと意識をするだけで、少し気持ちが和らぐようになると思います。

 それによって、次の行動も変わるはずです。まわりのすべての人の発言や行動から、私たちは何かを学び、自分を成長させることができるのです。

③機会的──起きた出来事をチャンスとして考える

「この出来事は、何のチャンスだろう」と考えることを、習慣にしてみましょう。

 私は問題が起きた時には、心の中で一言つぶやくことにしています。「この時を待っていたんだ!」、あるいは「この時のために準備してきたんだ!」と。

 そうして、気持ちを入れ替えてから、後で、さてどうしたらそうなるのかを考えるのです。そうすると不思議なことに、新たな発想が次々と湧き出てくるようになります。

 チャンスにできない出来事はありません。チャンスにしない人がいるだけです。

「これは何のチャンスだろう」と考えることで、どんなに辛い出来事も、どんなに大きな失敗も、人生の中では必要なこととなり、後になってそのことがきっかけで、大きく成長することができたと言えるようになるはずです。

 どんな成功者にも、誰にでもあるように困難が降りかかっています。むしろ成功するほど、大きな困難が降りかかるようになる、と言っても過言ではありません。

 しかし、それらをチャンスに変えることができたからこそ、成功者となることができたのであり、これからも成功者であり続けることができるのです。