書影『歴史で読み解く!世界情勢のきほん』(ポプラ新書)『歴史で読み解く!世界情勢のきほん』(ポプラ新書)
池上彰 著

 ドイツによる侵略で、ソ連は兵士や民間人など約2660万人の犠牲を出しました。日本の太平洋戦争の犠牲者は約310万人ですから、ソ連の犠牲は群を抜いていました。

 ソ連はこれだけの犠牲を払ってドイツ軍を撃退。さらに東欧諸国を次々にドイツ軍から解放し、遂にはドイツの首都ベルリンに突入。ドイツを降伏させたのはソ連の功績だという誇りを持っているのです。

 これだけの犠牲を払って東欧諸国を解放したソ連として、戦後は東欧を緩衝地帯として自国を守る盾にすることを考えます。

 その一方で、東欧諸国の国民の間ではソ連に対する嫌悪感が広がりました。ソ連による厳しい統制や圧力があったからです。ソ連の忠実な“弟”たちであることが求められました。ソ連式の政治と経済の手法が押し付けられたのです。

 しかし、スターリンの死後、「これでソ連の厳しい統制が緩むのではないか」と考えたハンガリーで、自由化に向けた動きが起きます。ところがスターリン亡き後のソ連も、多数の戦車をハンガリーに送り込んで武力弾圧。ハンガリー共産党の指導者は拘束され、やがて処刑されてしまいます。これが「ハンガリー動乱」(あるいは「ハンガリー事件」)です。ソ連の弾圧に反対して行動に出たハンガリー国民の多くもソ連軍によって殺害されました。

 また1968年にも、今度はチェコスロバキア(現在はチェコとスロバキア)で民主化運動が起きると、ソ連は再び戦車で弾圧し、「プラハの春」と呼ばれた民主化運動はついえます。ソ連が崩壊した後、東欧諸国が雪崩をうって西側諸国になびき、NATO(北大西洋条約機構)に加盟したのには、こういう苦くて暗い過去があったからです。

 しかし、これがプーチン大統領にとっては、「NATOが東進してきた」という恐怖感につながるのです。