政治信条よりも批判に「やけくそ」になる政治
ご存じのように今回、岸田首相が唐突に「所得税減税」をぶちまけたのは、ネットやSNSで「増税メガネ」などという批判があって、それを意識したからだと言われている。
「一国の首相がいちいちそんな声に反応するかよ」と思うだろうが、これまで2年間の岸田首相の政策決定プロセスを振り返ってみるといい。
政治信条や信念で政策を決めているというわけではなく、政策として費用対効果などを精査することなく、批判を受けると「そんなに文句ばかり言うならやってやるよ」という感じで「やけくそ」気味に進めているように見えるケースも少なくないのだ。
わかりやすいのが、21年の衆院選後の「10万円バラマキ」だ。
首相就任直後の衆院選で公明党が「18歳以下の子どもに一律で10万円相当を給付する」と公約に掲げた。
ただ、歴史的事実として、現金バラマキはほとんど貯蓄に回ってしまうので、景気対策にも貧困対策にもならないという厳しい現実がある。そこで、岸田政権は半分現金、半分クーポンで渡すという「折衷案」を提示したが、事務費用が1200億円もかかるとボロカスに叩かれた。そこで結局、岸田首相は方針をガラッと転換して、所得制限をかけて18歳以下を対象に10万円が現金一括給付となった。批判されたのでやけくそ的に、効果のないことがわかっているバラマキに踏み切ってしまったように見える。
日本という国家の根幹をなす安全保障もやけくそ感が漂う。
岸田氏が首相就任直後、党内のタカ派や保守支持層からは、「岸田さんでは日本の安全保障が不安だ」という批判が出ていた。岸田氏が率いる「宏池会」は「軽武装・経済重視」を掲げるハト派だからだ。
だが、そんな風に弱腰とナメられてカチンときたのか、5年間の防衛費は安倍・菅政権時代の計画に比べて1.6倍にふくれ上がった。2027年度には1兆円を確保するため「防衛増税」が控える。敵基地攻撃能力として米国製巡航ミサイル「トマホーク」を購入し、国産長射程ミサイルの開発・増産費も大幅に増やす。
タカ派で知られた安倍晋三元首相が何年かけてもできなかったことを、岸田首相は「うるせえなあ、だったらやってやるよ」とやけくそ気味に成し遂げた。そのあまりに捨て鉢な動きは、米「タイム」誌の表紙にこんな嫌味を書かれるほどだ。
「岸田首相は何十年も続いた平和主義を捨て、日本を真の軍事大国にすることを望んでいる」
もちろん、「分断から協調へ」を掲げる岸田首相が「軍事大国化」など望むわけがない。党内のタカ派や自民党支持の保守層など四方八方からの批判から逃れたい一心で、「はいはい、やるよ。やりゃいいんだろ?」とやけくそ的な対応をしてきただけなのだ。