消費税減税されても効果はほとんどない
こういう岸田首相の政策決定プロセスのパターンを見ていると、「消費税減税」もあるのではないかと思ってしまう。
今は「消費税減税はない」と明言して所得税や住民税の減税を示唆しているが、国会、マスコミ、世論から批判が高まれば、これまでのようにあっさりと方針を転換して、「じゃあ、1年間限定で5%にします」とか言い出さないとも限らない。
そう聞くと、「そういうやけくそは大歓迎だ!これで日本の景気もちょっとは上向く」と喜んでいる方も多いだろう。ただ、大変申し上げづらいのだが、人口減少が進行するこの国で「減税」しても経済成長にはつながらない。多少は景気が良くなることがあっても根本的な問題が解決できないので経済が冷え込む。効果は限定的だ。特に今、各党が掲げている1年程度の期間限定では給付金のバラマキと同じなので、個人も企業も貯蓄が増えるだけで効果はほとんどないだろう。
もちろん、しばらくは、「消費税減税セール」とかでにぎやかになるかもしれない。庶民も晩ごはんのおかずが一品増えたとか言って、家計も多少は楽になるかもしれない。しかし、それだけだ。
日本経済低迷の主たる元凶である「低賃金」は何も変わらないし、低所得世帯は低所得世帯のままだ。
なぜこうなるのか。わかりやすいのは、東京財団政策研究所・研究主幹の森信茂樹氏が22年7月に書いた「欧州の消費税減税はどう評価されているのか」という記事だ。執筆時点で消費税率を一律引き下げたドイツへの評価をまとめている。以下に引用しよう。
2020年7月1日から2020年12月31日までの半年間に限定し、標準税率を19%から16%へ3%引き下げ、軽減税率も7%から5%へと引き下げた。外食についてのみ2022年末までの減税措置が継続されている。引下げの効果についてシンクタンクの評価を見ると、消費税の引下げが消費増につながった効果は限定的であり期待通りの効果は達成されなかったと結論している。その主な原因は、引下げ分の一部が企業の手元に残ったことを指摘している。(Ifo「Has the Reduction in Value-Added Tax Stimulated Consumption?」https://www.ifo.de/en/publikationen/2021/article-journal/has-reduction-value-added-tax-stimulated-consumption)
また英国ガーディアン紙(2020年7月14日付)は、「多くの企業は消費税引下げ分をポケットに入れる予定だ。ナショナルギャラリーは減税分を美術館の修復に充てる予定だ」と伝えている。(https://www.theguardian.com/business/2020/jul/14/hospitality-vat-cut-may-not-be-passed-on-to-uk-consumers)
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日本でもコロナ禍のバラマキ時に同じことが起きている。時短営業や休業を強いられた飲食店の従業員を救済せよ、ということで給付金や協力金をバラまいたが、そのほとんどは経営者のポケットに入って「事業運転資金」に化けた。労働者への休業補償や賃上げに転換されなかったのだ。
この傾向はドイツよりも日本の方が顕著だ。