人生100年時代と言われる昨今、老後資金は「将来不安」の象徴のような存在になっている。老後破綻しないためには、年金に「働くこと」を付け加えることがカギになる。AERA 2023年10月30日号より。
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50歳代の会社員を対象に20年間、ライフプランセミナーの講師を務めてきたファイナンシャルプランナー(FP)の澤木明氏(73)が言う。
「定年後を見据えて自分の老後マネーのことをちゃんと考えている人は、ほとんどいませんね」
セミナーでは老後マネーの基礎を教える。マネープランを作るには、今、いくら稼いで、いくら使っているのか、現状把握ができていることが出発点になる。ところが、把握できている人がまず見当たらないという。
「収入は給与明細を見ればわかりますが、支出がわかっている人がほとんどいない。セミナーで家計簿をつけている人は1割ほどしかいませんから。今、自分がいくら貯めているのか、貯蓄残高についても同じ状況です。全体像がわかっていない人ばかりですね」
「老後破綻」示すグラフ
一方、お金の専門家集団、日本FP協会が発行する、老後準備のための一般向け小冊子「今からはじめるリタイアメントプランニング」と「60代から始めるマネー&ライフプラン」には衝撃的なグラフが載っている。
50歳、60歳から始めて、ともに65歳でリタイアする会社員の夫婦を想定、100歳までで家計がどう推移するか、その長期予想をしたものだ。
例えば「今から~」の夫婦は、50歳時点の年収は700万円、その後、50代後半や60代前半の継続雇用で次第に年収は減っていき、生活費も当初の360万円が3年後から340万円に下がる。それでも60歳時点で退職金を含めると貯蓄が3千万円近くに達するものの、そこから貯蓄残高はみるみる減っていき、今のままでは80歳で貯蓄が底をつく結果になっている。
いわゆる「老後破綻」である。注釈には、こう記されている。
「旧世代の典型的なライフプランで考えると、今の50代がセカンドライフを乗り切ることは難しくなることが予想されます」
ということは、現状把握ができていない50代会社員のお先は「真っ暗」ということになってしまう。いったい老後資金はどう考えればいいのか、また実際はいくらあれば安心できるのか。
かつて平均寿命が今ほど高くなく、日本経済が元気な時は、老後資金は大きな問題にはならなかった。定年後から亡くなるまでが短く、また、賃金も最後まで右肩上がりだったから、定年まで働けば大抵の人が必要な老後資金を準備できたからだ。