白い防護服、魯迅、ニラを手に持つ人……
上海ハロウィーンの社会派コスプレいろいろ

「大白」とは、ゼロコロナ政策下で上海を含む中国の各都市をロックダウンし、市民を管理していた集団であり、多くの市民の怒りを買った存在だ。大白に扮してPCR検査を行うパフォーマンスは、ゼロコロナ政策への反発や不満を風刺したものだ。しかし、ネット上の動画では、秩序を守る警察によって「大白」のコスプレイヤーが退場させられる場面も見られ、昨年の出来事との皮肉な対比が話題となった。

 次に話題になっていたのが、中国の文豪・魯迅の仮装だ。片手に「医学を学んでも国民は救えない」という名言を掲げ、もう片手で魯迅の本を持っていた。魯迅は、医師を辞めて作家になった人物で、その理由について著作の中で次のように述べている。

「愚弱な国民は、たとえ体格がよく、どんなに頑強であっても、せいぜいくだらぬ見せしめの材料と、その見物人となるだけだ。病気したり死んだりする人間がたとい多かろうと、そんなことは不幸とまではいえぬのだ。むしろわれわれの最初に果たすべき任務は、かれらの精神を改造することだ」

 この人は大きな声で魯迅の詩を朗読していたが、すぐに警備員に退場させられていた。

 また、目の下にクマをつくり、疲れ切った顔の男性が「乙」と書いた紙を身に付けている様子を仮装した人もいた。これは、国有企業や大企業が下請けの中小企業(契約書で「乙」と書かれることが多い立場)に、業務を何回も修正させたり、理不尽で不合理な要求を突き付けたときに、無理をして応じざるを得ない中小企業員の悲哀を象徴するものだ。

 さらには、一束のニラと上海総合指数(上海証券取引所の株価指数。2015年以降約8年低迷が続いている)を書いた紙を持った人、暗く血の気が引いた顔で人形の赤ちゃんを何人も抱え、妊婦のようにお腹を膨らませた人、頭が監視カメラになっているコスプレをする人などもいた。ニラはネットスラングの「ニラ刈り」のことで、ニラは刈っても刈っても終わらない、労働者が搾取されているという意味だ。人形は結婚しない・子どもを産まないという若者たちの気持ちを表し、監視カメラは監視社会への不満を表現したものである。このほかにもさまざまな社会問題を風刺した仮装をする人たちがイベントに参加していた。

参考記事:中国で「我々は最後の世代だ」が流行語に、結婚・出産に絶望する若者が急増

 こうしたコスプレは、インターネットを通じて中国全土に広まり、多くの人の共感を呼んだ。そして、

「これはまさに中国スタイルのハロウィーンだ」
「さすが上海!その場に居たかったなぁ」
「独創的な発想、センスの良い振る舞い。若い彼らを誇りに思う。中国の希望を見出した」
「これは中国のルネサンスだ!勇気のある我が国の若者に乾杯!」

 といった称賛の声が上がった。

 上海の旧フランス租界、まさにハロウィーン会場になっていたエリアに住む筆者の友人たちは、これまで観光地化による騒音に文句を言っていたが、今回のハロウィーンには前向きな反応を示しており、「3年間のコロナ禍でのストレスが爆発したのではないか」と話していた。また、「今年のハロウィーンは鲁迅や霸王別姫など興味深いものが多かった。文化的でレベルが高かった」と称賛していた。