当時の日本による経済協力は、「資源輸出への依存度が高く、資源価格の変化に対して脆弱性が高い」というロシア経済の弱点を補うものだった(第297回・p4)。
その結果、プーチン大統領は当時、日露経済協力について「信頼関係の醸成に役立つ」と評価していた。今でこそウクライナ紛争を巡る情報戦の渦中にいる人物だが、この発言は「本音」だったのではないだろうか。
なお、ウクライナ紛争の前になるが、筆者はサハリンを5度訪問したことがある。あの頃のロシアには安倍氏に対する感謝の念と、日本に対する信頼があったと感じた(第90回・p2)。ウクライナ戦争が泥沼化し、日露間が対立する関係にある現在も、その名残があるように思える。
つまり、安倍氏による対露外交は北方領土の返還にはつながらなかったものの、そこで培った信頼関係が「布石」となり、時を経て「サハリンI・II」の権益維持に貢献した――という見方ができる。
外交とは「目先の成果」が出るかどうかにかかわらず、各国との確固とした信頼関係を日々構築していくことが重要なのだろう。
中立である日本は
G7協議で「おいてけぼり」の過去も
では、中東情勢に話を戻したい。
日本はこれまで、イスラエルとパレスチナ自治政府の間で中立の立場を保ってきた。
日本は石油輸入量の90%以上を中東に依存しており、エネルギーの安定供給にはアラブ諸国との関係維持が不可欠だ。ゆえに日本は、アラブ諸国が支援するパレスチナに対して財政支援を続けてきたわけだ。
一方、日本はイスラエルにとって最大の後ろ盾である米国など「自由民主主義」陣営への配慮も継続してきた。日本の安全保障は、自由民主主義陣営の協力なしでは成り立たないからだ(第313回・p4)。また、イスラエルのハイテク産業が成長著しいことから、日本は対イスラエル投資を積み増してきた。
結果として日本は両陣営と良好な関係を継続できているが、「副作用」として外交の自由度は狭まっている。
実は今年10月末、「日本以外」のG7メンバー6カ国が中東情勢について協議し、「イスラエルの自衛権を支持する」との声明を発表したことがある。この協議に関して、中立である日本は蚊帳の外だった。だからこそ、冒頭の共同声明は上川外相にとって格好のアピール材料になったのだろう。