「毎日、頑張っているけれど、どうにも充実感がない」「本当に充実した人生といえるのか」「将来の備えはどのくらい必要か」……。そんな誰もがぼんやりと抱いている疑問に、ストレートに響いたのではないか。2020年に刊行してベストセラーとなり、今なおロングセラーを続けているのが、『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』(ビル・パーキンス著)だ。その提案は、資産を死ぬときにゼロにしよう、というもの。お金の“貯め方”ではなく、“使い方”を変えるのだ。限りある人生で「金」と「時間」を最大限に活用するためのルールとは?(文/上阪徹)

気づいたときはもう遅い……多くの人が陥る「人生を奪う習慣」Photo: Adobe Stock

「自動運転モード」な生き方が危険な理由

 いい仕事に就き、多くの時間を仕事に捧げ、コツコツと貯金をして将来に備え、いずれ年を取ったら引退し……。当たり前のように誰もが考えてきた人生観が、完全にひっくり返される。

 まさに、人生が変わった、という声が読者から次々に届き、20万部を超えるベストセラーとなっているのが、『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』(ビル・パーキンス著)だ。

 なぜ、人生は充実しないのか。ワクワクがやってこないのは、なぜなのか。ドキッとさせられるようなフレーズがある。

「日常生活の大半は、誰かがつくったプログラム通りに行動しているかのように無自覚に生きている」と著者はいうのだ。そして、時間と金をどのように使うかについて、実は十分に考えてはいない、と。

 象徴的な例として、「スタバのコーヒーを毎日買っているあなたへ」と問いかける。

 それは、毎日のコーヒーの習慣を見てもわかる。一杯のラテのような小さな出費の切り詰めが長い目で見て大きな節約になることは、「ラテ・ファクター」という言葉で表現される。
 毎朝、コーヒーショップに立ち寄り、決して安くはないコーヒーを買い、1日を始める人は多い。だが、このちょっとした贅沢が、1年間でどれほどの額になるかに気づいていない。
(P.64-65)

 著者は、浮いた金を死ぬまで懐に入れろ、と言っているわけではない。せっかく金があるのに、それを楽しい経験に使わないのはもったいないと言っているのだ。

 毎朝、モカやラテ、フラペチーノを買うために費やしているお金で、他にどんな経験ができるのかを想像してみてほしい、と。そのお金で、国内線の飛行機のチケットが買えたかもしれない。だから、無自覚で無意識はやめようというのである。

 自分の行動について積極的に考え、自らの意思で判断を下すことを習慣にすれば、「自動運転モード」な生き方はやめられるようになる。
 金と時間の使い方をよく考えて選択していくことは、人生のエネルギーを最大限に活用するための基本である。
(P.66)

気づいたときはもう遅い「自動運転モード」のワナ

「自動運転モード」で生きるのは、ラクなのだ。改めて何かを考えたりする必要がないからである。だからこそ、このモードを選んでしまう人は多いと著者は記す。

 そして「自動運転モード」は、無意識にひたすら大金を得ようとあくせく働いたり、貯蓄をさせたりすることにもなる。

 実例として、著者は友人のケースを挙げる。友人はヘッジファンドのトレーディングで大金を稼ぎ出した。ところが、良い人生を過ごしているようには見えなかった。1500万ドルを目標に稼ぐまで働き続けた。一定の冨を築いたら、残りの人生は好きなことに金を使って過ごすほうが意味があることもよく理解していた。

 ところが、引退までに稼ぐべき目標額は、上がり続けたのである。1500万ドルの目標はやがて2500万ドルになり、最終的には1億ドルになった。儲かり続けていると、仕事をやめるのも難しくなった。余暇の時間は減った。

 38歳で働くのをやめたとき、資産は40億ドルに膨れあがっていた。多くの人からは、夢のように見えるかもしれない。

 だがジョンにとって、それは数年遅すぎた。
 30代の価値ある時間が過ぎ去り、その割に稼いだ金も使いきれないほどに膨れ上がっていた。
 金を稼ぐことだけに費やした年月は二度と戻ってこない。ジョンは二度と30歳にはなれないし、子どもたちが赤ちゃんに戻ることもない。
(P.68-69)

 こんな「自動運転モード」の怖さもあるのだ。

 この文章を書いている私は、数千人に取材をしてきた経験があるが、そういえば、こんなことを言っていた人がいた。

「1億円を手にしたら3億円が欲しくなり、5億円を手にしたら10億円が欲しくなり、10億円を手にしたら、100億円が欲しくなった」

 果たして10億円、100億円というお金が自分の人生に本当に必要だったのか。そんなことを忘れて「自動運転モード」は走り出してしまうのである。

多くの人が陥る「無駄働き」のワナ

 一生懸命に働いて稼ぐのだから、いいではないか、とも思える。働くのが楽しかったのかもしれない。しかし、著者はそれは違う、という。

 ジョンは、単に働くことが習慣になっていただけだ。10代の少年が女の子のモテたいがためにタバコを吸い始め、その後も禁煙しないのと同じだ。中毒になり、その習慣をやめられなかったのだ。(P.70)

 そして、どれだけ働いて金を稼いでも、まだ稼ぎ足りないと感じる人は多いと記す。そして、何よりこの気づきを持っておくべきだ、と書く。

 莫大な時間を費やして働いても、稼いだ金をすべて使わずに死んでしまえば、人生の貴重な時間を無駄に働いて過ごしたことになる。その時間を取り戻すすべはない。(P.70-71)

 実は、老後のための貯蓄は、ほとんど使わずに終わってしまうケースが少なくないのだという。FRB(中央準備制度理事会)の調査に基づくデータが本書では記されているが、何十年もかけて資産を増やし続けるも、老後になるまでそれを使い始めない人が多いからだ。

 なんと、70代になっても人はまだ未来のために金を貯めようとしていることもわかるという。

 老後のために貯蓄する、と言っていた人は、退職しても、その金を十分に使っていない、いや使えない、のである。こうして苦労して働いて稼いだ金は、結局使われず、まさに無駄働きとなるのだ。そして、著者はこう書く。

 年を取ると人は金を使わなくなる(P.87)

 老後のための貯蓄をするな、と著者は言っているわけではない。医療費もかかる可能性がある。だが、巨額の医療費がかかるかどうかは、冷静に見極める必要がある。

 つまりは、今の生活の質を犠牲にしてまで、老後に備えすぎるのは大きな間違いだ、ということである。その価値観が惰性のようになっていないか、と問うのである。

(本記事は『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』より一部を引用して解説しています)

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『安いニッポンからワーホリ!』(東洋経済新報社)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。

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